石原良純さん「石原家の兄弟」インタビュー 思い出を整理して未来へ
日本で最も「強烈な一家」と言ったら言い過ぎだろうか。作家で政治家だった石原慎太郎さんと、国民的スターだったその弟の裕次郎さん。良純さんの声かけのもと、慎太郎さんの息子4人が石原家の思い出を文章にまとめた。
誰しもが想像する慎太郎さんの豪放磊落(らいらく)さは、家庭でも変わらないようだ。家族旅行に飽きて一人で帰る。「(子育てに)興味がなかった。自分がやりたいことが多過ぎて時間がなかった」と息子に言い放つ。中学生の孫と旅行に行ったのに「まだ子供だな。話が通じん」と文句を言う。
長男と四男では9歳の差がある。良純さんは、実は4人が微妙に異なる父の姿を見ていたことに今回気づいた。「男兄弟の内で親との会話の中身なんて話さないじゃない。兄貴しか、弟しか知らないおやじやお袋がいた」
長男の伸晃さんは誰よりも父と大人のつきあいをしていた。次男の良純さんはよく怒鳴られる役回りだったが殴られたことはなかった。三男の宏高さんは堅実な性格を尊重してくれる父の気遣いを感じた。四男の延啓さんは作家としての父を見つめていた。
そして良純さんが「原稿にあまり書いたことがなかった」という母も登場する。激烈な父を支える石原家の「事務長」として忙しく立ち回っていた典子さん。幼き日に寂しさのあまり、典子さんの愛を求めたのは良純さんだけではなかったという。「父の伴侶はお袋にしか務まらなかった。お袋の思い出や生き様をようやく書けた」
2022年2月に慎太郎さんが、その35日後に典子さんが亡くなった。二人の死から事務的なことで忙殺されていたが、飛行機で移動中にこの本の最終章を校正していて、涙が止まらなくなったという。「父や母のこと。俺が育った石原家のことを、兄弟でようやく整理ができた」
それは未来に向けての作業だったという。「『あの時親はこう言っていたよな』って思い出しながら、それを自分の家族や仕事の仲間とのことにフィードバックしていく。それが俺たちが生きていくっていうことかな」(文・女屋泰之 写真・池永牧子)=朝日新聞2025年10月25日掲載