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奥野克巳さん「フィールドワークのちから」インタビュー 揺さぶられ問いを深める

奥野克巳さん

 1990年代半ばにインドネシアの焼畑稲作民を調査した後、マレーシアの狩猟採集民プナンの研究に転じて四半世紀。『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』(2018年)が注目され、一般向けにも執筆活動を重ねてきたが、本書はフィールドワークという人類学の核心に挑んだ。

 翻訳を手がけてきた英国のティム・インゴルドの言葉が共感をこめて示される。人々「について」でなく人々「とともに」する研究を。調査のために相手と親しくなる「二枚舌」の戦略や、学術の枠組みに人々を当てはめる過ちは克服しなくてはならない。生とは動画のようにジタバタと変容を続けるもの。そのプロセス全体をみつめ、彼らに学ぶ姿勢が必要だ、と。

 「ただ、結論だけ言ってしまえば、フィールドワークで最も重要なのは『揺さぶられること』です。それまでの視点がひっくり返り、世界の見え方が変わる。その体験以外はなくてもいいくらい」

 自身も揺さぶられた。プナンでの最初の半年は後悔しきりだったのが、あるときからがぜん面白くなった。自他の区別、所有意識、労働観、時間の感覚、何もかもが。何度足を運んでも、毎回驚きと違和感と発見があるという。

 「行けば行くほど問いは深まるんですね。人間とはどんな存在なのか。自分とは何か。どう生きればいいのか」

 人類学は近年、テーマも対象とする地域も多彩になったが、「外部」はなくなったわけではないと実感している。

 外へ出かけ自己を相対化する営みだからこそ、人類学が既存の学問に回収されてしまうのを危ぶむ。今回の本は「文体革命」をめざし、軽妙に書いた。漫画による人類学の本を出したことも。昨年から仲間たちとユーチューブで「聞き流す、人類学。」という番組の配信を始めたのも、人類学を「開く」ための仕掛け、インゴルドの言う「メイキング」の試みなのだそうだ。

 人間中心主義を見直すマルチスピーシーズ研究にも取り組む。アニミズムと性、2冊の近刊も準備している。(文・藤生京子 写真・小山幸佑)=朝日新聞2025年11月1日掲載