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人びとの試行錯誤を横糸としたユニークな通史「戦後史 1945-2025」 佐藤雄基の新書速報!

  1. 『戦後史 1945-2025』 安岡健一著 中公新書 1430円
  2. 『戦争の美術史』 宮下規久朗著 岩波新書 1496円

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 戦後80年、すでに明治維新から1945年の敗戦までの期間を超える時間が過ぎた。戦後史は「今」と深く結びついているが、あまりに長く、世代による体験の差と断絶も大きくなった。地域や個人という視点から戦後社会に取り組んできた歴史家による(1)は、人びとの試行錯誤や国際社会とのかかわりがどう社会を変え、今に至るのかを見ていくユニークな通史。政権交代を軸とする政治史を縦糸とし、戦後の引き揚げ者や外国人、高齢者や女性など、様々な属性をもつ人びとが各自の社会的「課題」にどう向き合ってきたのかを横糸としながら、戦後の基本的な出来事を押さえる。本書を片手に、異なる世代間でもっと対話してみたくなった。

 80年経ってようやく向き合える問題もある。戦争協力の歴史として関係者が口を閉ざしがちだった戦時下の戦争美術について、近年では各地の美術館で企画展が開かれ、再評価の機運が高まっている。西洋美術史家による(2)は、日本・西洋双方の美術史を軸に、戦争がどう表現されてきたのか、戦争と美術の関係を壮大な通史として叙述する。古代から現代まで論じるために情報量と作品数が圧倒的だ。その上で、特に20世紀の戦争がもつ大量死という現実のもと、画家が何を感じ、何を描いたのか、オットー・ディックスや藤田嗣治ら、時代を生きた画家一人ひとりへの深い洞察が印象的だ。戦争礼賛でも反戦でもない。美術の本質とは何か、深く考えさせてくれる一冊。=朝日新聞2025年12月13日掲載