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「国宝」どんな本? 歌舞伎の世界を描いた大河小説、映画興収が歴代1位に

「国宝」あらすじ

 『国宝』は2017年1月から2018年5月まで、朝日新聞朝刊で連載された小説です。2018年9月に単行本として出版され、2021年9月に文庫化されました。

 任俠の一門に生まれながら、この世ならざる美貌を持った喜久雄。上方歌舞伎の名門の嫡男として生まれ育った俊介。二人の若き才能は、一門の芸と血統を守り抜こうと舞台、映画、テレビと芸能界の転換期を駆け抜けていくが――。長崎から大阪、そして高度成長後の東京へ舞台を移しながら、血族との深い絆と軋み、スキャンダルと栄光、幾重もの信頼と裏切り、数多の歓喜と絶望が、役者たちの芸道に陰影を与え、二人の人生を思わぬ域にまで連れ出していく。吉田修一さん「国宝」インタビュー 歌舞伎の黒衣経験を血肉に、冒険し続けた4年間

「国宝」作者が語る執筆の裏側

吉田修一さん=斉藤順子撮影

 作者の吉田修一さんは、歌舞伎という題材を選んだ理由や、取材で黒子として楽屋に入った経緯について「好書好日」のインタビューで以下のように話しています。

 最初のきっかけは、仲のいい映画監督と歌舞伎の話になったことでした。数年後に朝日でまた連載をやることになっていて『悪人』からちょうど10年ぶりの作品になるから、何かスケールの大きいものを描きたいというのがあって、まったく自分が知らないところに飛び込んで、これまでとは違うものを描きたいとなんとなく思っていたところに、歌舞伎っていうのがピタッとハマったんですよね。決定打になったのは、それからしばらくして溝口健二の『残菊物語』を観たんです。『残菊物語』は、『国宝』の俊介と同じで、一度は落ちぶれた歌舞伎役者が旅回りをして復活する話なんですけど、その時に踊って見せるのが『積恋雪関扉』で「スゴイ!」と思って、あれでヤラれちゃいましたね。(中略)一流の踊りっていうのは、こういうものかと思わせるものがあったんです。吉田修一さん「国宝」インタビュー 歌舞伎の黒衣経験を血肉に、冒険し続けた4年間
 それまで歌舞伎は「観たことがある」くらいだったんですよ。それがDVDを観たり、実際に劇場に観にいくことを始めたのが4年くらい前で、ある方を通して、四代目鴈治郎さんを紹介していただいたんです。「こういう小説を書きたいと思ってるんです」という話をしたら「だったら、黒衣をつくってやるよ」と言ってくれて、でも初対面でしたし、飲み屋話だろうと思っていたら、翌月くらいに楽屋に顔を出した時に、すぐ寸法を測ってくれて、本当につくってくれたんですよ。「黒衣を着ていたら、舞台裏にいても目立たないから」って。ちょっと言い方はあれですが、歌舞伎役者、すげえって思いましたね(笑)吉田修一さん「国宝」インタビュー 歌舞伎の黒衣経験を血肉に、冒険し続けた4年間

 また、吉田さんは執筆の過程で、結末が当初の想定から変わっていったことを明らかにしています。

 登場人物が出てきた瞬間に、この人が死ぬんだったら、こういう感じだろうというのが、ぼんやり浮かんでいたし、一番いい舞台で死んでほしいというのは、思っていました。喜久雄が最たるものなんですけど、師匠の白虎にしても、萬菊にしても、俊介にしても、最高の幕切れを用意したいと思った。でもそうしたら、誰が国宝になるのかという結末も、最初に想定していたのと変わったんですよ。
 (中略)最初は今の結末とは違う結末を想定していて、編集者にも「この人が国宝になるまでの話ですから」と言っていたんです。俊介が出奔した時も、まだ最初に想定した結末でいこうと思っていたのが、この人にとって人間国宝になることが本当に幸せなんだろうかと。たぶん、それぞれの登場人物にとって一番幸せな終わり方をさせたいとずっと思いながら描いているうちに、こうなったんだと思います。吉田修一さん「国宝」インタビュー 歌舞伎の黒衣経験を血肉に、冒険し続けた4年間

「国宝」プロが選ぶ名セリフ

 文芸評論家の斎藤美奈子さんは「好書好日」に掲載された朝日新聞書評で「芸能界の華やかな話題もふんだんにちりばめた豪華絢爛な長編小説」と評し、以下の場面を紹介しています。

 20歳になり、大抜擢で『二人道成寺』を踊ることになった花井半弥(俊介)と花井東一郎(喜久雄)を前に半二郎は言う。
 〈俊ぼん、アンタは生まれたときから役者の子や。他の子らと野球するのも我慢して稽古してきたはずや。何があっても、ちゃんとアンタの血ぃが守ってくれる。そいで喜久雄。アンタ、うちに来て何年や? 五年になるやろ。そのあいだ、一日でも稽古休んだことがあるか? ないはずや。この『道成寺』かて、誰よりも稽古してきたんやろ。せやったら、なんの心配もいらん〉吉田修一「国宝」 道を極める女形二人 絢爛の軌跡 朝日新聞読書面書評から

吉沢亮さん= 有村蓮撮影

映画「国宝」で吉沢亮さんが挑んだ世界

 『国宝』は実写映画化され、2025年6月から公開されました。主人公・喜久雄を演じた吉沢亮さんは「好書好日」のインタビューで、歌舞伎という伝統芸能の世界を演じる難しさを振り返っています。

 女性としてのたたずまいがそのまま踊りになっているというのは、異次元の世界だなと思いました。その芸をたった1年半稽古したところで到底たどり着けない世界だと思いましたし、やればやるほど「とんでもない世界に足を突っ込んだな」と気づかされました。映画「国宝」吉沢亮さんインタビュー 「ひたすら自分を追い込み、ようやく表現できた世界」
 「芸を生きる」ということがこんなにも覚悟のいることなのかと痛感しましたし、これまでやってきた、役者として人間を生きることとは全然違う世界を生きたなと思います。何百年も前から先人たちが昇華してきた歌舞伎という芸を現代の人が今も受け継いでいて、だからこそ何百年も続いているのだろうなと思います。映画「国宝」吉沢亮さんインタビュー 「ひたすら自分を追い込み、ようやく表現できた世界」
 喜久雄がそのシーンで感じている苦悩や緊張、胸の高まりなど、そこにどれだけ自分自身が追いつけるかという日だったので、演じていてすごく苦しかったです。自分で自分をとことん追い込んだし、毎日「つらいな」と思っていたのですが、そこまでやって、ようやく表現できる世界みたいなものは撮れたと思っています。ただひたすらに自分を追い込むことで役になっていくような感覚は初めてかもしれないです。映画「国宝」吉沢亮さんインタビュー 「ひたすら自分を追い込み、ようやく表現できた世界」

(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025 映画「国宝」製作委員会

「国宝」映画化で大ヒット、書籍もベストセラーに

 映画は大きな反響を呼び、2025年11月に興行収入が173.7億円を記録。「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」(2003年、173.5億円)を上回り、邦画の実写作品の最高興収を22年ぶりに更新して歴代1位となりました。

 6月6日に公開された直後の週末の観客動員数は3位にとどまったが、その後4週連続で週末の興収が前週を上回った。21週連続で観客動員数がトップ10入りするなど、ロングランで興収を伸ばし続けた。今月24日までの公開172日間で、1231万人を動員している。「国宝」の興行収入、邦画実写の歴代1位に 「踊る大捜査線2」超す

 書籍(上・下、朝日文庫)もベストセラーとなり、2025年の日販、トーハンの年間ベストセラーでともに1位に。11月28日発表のオリコン年間文庫ランキングでも上巻が1位、下巻が2位に入り、日販、トーハンと合わせて「三冠」となりました

好書好日の記事から

映画「国宝」吉沢亮さんインタビュー 「ひたすら自分を追い込み、ようやく表現できた世界」
吉田修一さん「国宝」インタビュー 歌舞伎の黒衣経験を血肉に、冒険し続けた4年間
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