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「革命を鎮圧せよ」書評 自国民に向けた「例外」の合法化

評者: 酒井啓子 / 朝⽇新聞掲載:2025年12月20日
革命を鎮圧せよ: アメリカが市民に仕掛けた戦争 (サピエンティア) 著者:バーナード・E. ハーコート 出版社:法政大学出版局 ジャンル:社会・政治

ISBN: 9784588603785
発売⽇: 2025/09/29
サイズ: 13.8×19.3cm/352p

「革命を鎮圧せよ」 [著]バーナード・E・ハーコート

 大学では、必ず映画を学生に見せる。パキスタン系英国人の若者が、間違ってグアンタナモに連行され、二年以上も拘束される英映画だ。
 主人公が受ける拷問、虐待の生々しさに、学生たちは突っ伏したり泣き出したりする。だが、本書が挙げる拷問や反乱鎮圧作戦のむごさは、読むだけでも辛(つら)い。
 いかに海外で反乱を鎮圧するかは、北アフリカでの仏植民地支配に始まって、毛沢東の中国革命から学び、9.11後のアメリカへと継承された。
 イラクであれアフガニスタンであれ、9.11以降展開された「対反乱」戦は、「洗練され、活用され、検証された」。
 どう洗練されたのか。単なる戦場での軍事行動でなく、以下三つの柱を軸に展開された。すべての情報を収集、把握すること。少数の「革命分子」を排除すること。住民の心を掌握すること。イラク戦以後にペトレイアス将軍が採用した作戦だ。
 問題は、この対反乱戦略が今や国内に向けられていることだ。「反乱も蜂起も革命もないアメリカの地で」、対反乱戦略は国内化されて、自国民を対象とする。警察が軍事化し、警察活動と戦争の区別は曖昧(あいまい)になる。
 なかでも国内のムスリムやヒスパニックなどマイノリティーが、「潜在的な敵」とでっちあげられる。すべての通信は捕捉され、ネット産業を通じて個人情報が吸収されて統治に利用されるが、そこから活動分子とみなされた少数の人々が、大衆から切り離されて弾圧される。一般市民は、ゲーム三昧(ざんまい)に耽(ふけ)っていてくれれば、それでいい。
 さらに恐ろしいのが、9.11以降加速した「例外状態」との認識が、もはや定着して合法化されていることだ。対反乱戦略は「例外」という一時的なものではなく、永続的で「体系的な統治のアプローチ」である。
 本書で語られるのはアメリカのことだが、悲しいことに、日本でも類似の傾向が一部進行中だ。そのことに戦慄(せんりつ)する。
    ◇
Bernard E. Harcourt 1963年生まれ。米コロンビア大教授(刑事司法)。法律家として弁護活動なども行う。