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「たまさかの古本屋」書評 一期一会を楽しみ、生きる糧に

評者: 有田哲文 / 朝⽇新聞掲載:2026年01月24日
たまさかの古本屋 シマウマ書房の日々 著者:鈴木 創 出版社:亜紀書房 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784750519005
発売⽇: 2025/12/09
サイズ: 18.8×2.5cm/256p

「たまさかの古本屋」 [著]鈴木創

 新刊書店とちがって古書店は、一期一会の場である。いまここで出会ったこの本に、今度いつ会えるか分からない。買うべきか買わざるべきかの思案は、真剣味を帯びる。いくらネットで古本が手に入るようになっても、店に入ったときの感覚は変わらない。
 それは、古書店主である本書の著者に言わせれば、棚にある本は「いずれも一点もの」だということだ。次に同じ本が扱えるとは限らない。だから本当に読みたいと思った人、必要としている人に届けと願う。
 本をめぐるこのコラム集で、とりわけいいなあと思うのは、本への思いが、本を手にするすべての人たちへの優しいまなざしにつながっていることだ。例えば亡くなった方の蔵書を引き取る仕事をするとき。仏壇の写真と対話するような気持ちで手を動かす。「どうですか、なかなか良い本があるでしょう」と故人に言われ、「ええ、これなんかは、ちょっと珍しい本ですね」と答える。
 書き込みにも思いをはせる。なぜこんなところに傍線があるのだろう。「たしかなことは遠い昔、Aさんがこの一文を読みながら、なにか特別なものを感じた。そういう瞬間が存在したということだけだ」
 本書にはブックガイドの趣もあり、著者の読書家ぶりがうかがえる。しかし「普段、どんな本を読んでいるんですか」と聞かれても、うまく答えられないという。引き取った蔵書のなかには古紙に回すしかない本がある。そのなかで最後に自分だけは読んでおこうと感じた本を電車のなかで開いている。
 だから普段読んでいるのは「傷みや書き込みの多い、状態の悪い本。内容的には自分の好みに関係なく、これまで読んでこなかった本。たまたまそのとき目の前にあって、つい手が伸びたもの」となる。著者も一期一会を楽しみ、生きる糧にしている人なのだ。すべての本好きに、手にとってほしい一冊である。
    ◇
すずき・はじめ 1973年生まれ。名古屋市で「シマウマ書房」を営む。本書は朝日新聞地域面のコラムをもとにした。