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解体と生成、日常の隣に 青来有一

イラスト・竹田明日香

 工事現場の白い目隠しパネルに沿って歩道を歩いていたら、警備員に止められました。ゲートが開いて、大型ダンプカーがゆっくりと現れてきます。車輪は太く大きく、運転席も高い位置にあり、深型のたっぷりとした荷台にはガレキを積んでいるのでしょう、運転手は慎重にハンドルを切って、道路に出ていきました。

 警備員の白い旗に誘導されて、ゲートの前を歩いていく時、工事現場全体が見えました。アパートが建っていた場所でしたが、ガレキの山がいくつかあり、バックホーとかユンボと呼ばれる小型の黄色い重機が2台、停止しています。

 1台はアームを曲げて油圧ショベルをガレキに突き立て、もう1台は鉄のカニのハサミのような形のカッターで、大きなコンクリートの壁の残骸を今にも切断しそうにがっしりとはさみこんでいます。

 コンクリートの建物の撤去はおおかた終わり、ガレキを砕いて運び出しているのでしょう。作業員のひとりが長いホースを手にして、ガレキに水をかけていました。

     *

 東京など大都市圏では、高層ビルやマンションなどの大規模な建設ラッシュがいつも続いている感じで、空高く突きだした巨大クレーンをよく見かけます。再開発の波が、地方にも少しずつ押し寄せているのかよくわかりませんが、最近、ビルの建て替え現場にしばしば出会うようになりました。

 多くは中をのぞくことはできません。たまにビルの切断された断面などが見えると、つい立ち止まりそうになります。世の中の裏側というか、現実の別の次元をすきまからのぞきこんだような、かすかな衝撃に襲われるのです。世界が生成発展する一方で、絶え間なく続く解体や消失を実感する瞬間なのかもしれません。

 子どもの頃、アリが黒い輪になって昆虫の死骸に群がっている光景をよく見ました。セミとかハチとかハナムグリなど、死んだ虫をアリが解体しているのです。イヌやネコなど大きな獣の死骸は生々しくて直視はできなくても、昆虫など外骨格の生き物の死骸はかさかさと乾いていて小さいので、それほど抵抗もありません。

 モンシロチョウの白いはねを、アリが小さなアゴでくわえてヨットの帆のように運んでいく光景や、コオロギの節くれだったうしろ脚が、長いアリの行列の上を縦になったり、平らに寝たり、ちょこまかと踊るように流れていく、そんな光景を見た記憶もあります。

 最近、わが家の近くの国道に面した一角にも空き地が現れました。長く工事用パネルでおおわれて、コンクリートを解体する音が響いていましたが、立ち入り禁止の黒と黄色の標識ロープが張られるだけになり、地面がのぞいていたのです。

 赤茶けた粘土質の湿った地面は平らにならされ、隣のビルの壁面はひどく黒ずんでむき出しになり、こんな狭い土地にビルがあったのかという驚きもありました。路地裏も明るくなって、あたりに解放感が出て、バスが通る国道もよく見えます。

 ビルの影になっていたところで生活している人々も喜んでいるのではと思いましたが、なんとなく気恥ずかしいというのか、なにか落ち着きません。

     *

 数日が過ぎ、新しい建物建設のためでしょう、テントが立って、地鎮祭の盛り土があり、半月ほど後には再び大きなパネルで囲まれました。せっかく日当たりがよくなったのにちょっと残念に思う一方、空き地にトラックが乗りこんで機材の搬入が始まると次の建物に関心が向き始めました。

 虫たちの世界から人間の世界、宇宙に至るまで解体と生成がたえまなく続いているはずです。日常の裏に隠れたそんな光景がかいま見えたら、ぎょっとしながらも、やはり立ち止まってのぞきこまないではいられない気がします。=朝日新聞2024年8月12日掲載