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「シリアの家族」 強い結びつき 内戦生き抜く姿 朝日新聞書評から

評者: 高谷幸 / 朝⽇新聞掲載:2026年02月07日
シリアの家族 著者:小松 由佳 出版社:集英社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784087817737
発売⽇: 2025/11/26
サイズ: 13.4×19.4cm/328p

「シリアの家族」 [著]小松由佳

 シリア――正直日本では馴染(なじ)みが深い国とはいえない。トルコの南、地中海の東側に接するその地では、二〇一一年、「アラブの春」の影響を受け、親子二代にわたる独裁的なアサド政権の打倒と民主化を求める市民の声やデモが拡大した。しかし政権は、こうした動きを武力によって弾圧、これに対し、市民の自衛が始まった。反政府勢力が結成され、内戦へと至った。その後、イスラム過激派組織ISの勢力拡大やそのISを攻撃する西側諸国の有志連合軍による攻撃などもあり、シリアの大地と人びとは傷つけられていった。
 そうしたなか、多くの人びとが難民として、隣国トルコやヨーロッパ、世界各地に逃れた。一〇年以上にわたる内戦の後、二〇二四年にアサド政権が崩壊、現在、国の再建が始まっている。
 本書は、シリア人の夫をもち写真家である著者が、その夫のつながりでできたシリア・パルミラを故郷とする家族やその周囲の人たちがこの激動の時代を生き抜く様子を描いたノンフィクションである。
 シリアの人びとは大家族を形成し、そのつながりは強い。難民としてヨーロッパを縦断し、ドーバー海峡を渡ってイギリスに逃れた親戚、避難先のトルコで命を終えざるを得なかった義父、秘密警察の監視下で生きる人びと、政治犯として捕(とら)えられ収容された刑務所からの生還者、そして政権崩壊後、故郷の大地を踏んだ夫……。歴史のうねりの只中(ただなか)を生きる一人ひとりの姿が、著者の温かな眼差(まなざ)しと冷静な取材力によって捉えられる。
 その基盤には、土地と共に生きる人びとと、それを奪われた人びとがそれでもなお保持する「命と人間性」にたいする著者の共感があるだろう。
 シリアという異文化を描く筆致も周到で繊細だ。だが同時に、そこから浮かび上がるのは、特別な感情的結びつきをもち、だからこそ葛藤も経験するという、私たちにも身近な家族の姿だ。
    ◇
こまつ・ゆか 1982年生まれ。ドキュメンタリー写真家。2006年、世界第2位の高峰K2に日本人女性として初登頂し、植村直己冒険賞を受賞。著書に『人間の土地へ』など。本作で開高健ノンフィクション賞を受賞。