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櫻田智也さん「失われた貌」どんな本? 初の長編・警察ミステリー、精妙な伏線と家族の悲劇

『失われた貌』あらすじ

 2025年8月刊行の『失われた貌』は、定番の「顔のない死体」から始まる警察ミステリー。刑事の日野に持ち込まれる様々な案件がからみあい、一つの謎が解き明かされるごとに事件の様相は変化していきます。

 物語はミステリーの定番「顔のない死体」から始まる。J県の山奥で発見された変死体は顔をつぶされ、両腕から手首が切り落とされていた。翌日、隣市のアパートの一室で大家の死体が見つかるが、住人は行方不明。同じ日、小学生が警察を訪れ、変死体は10年前に失踪した父親ではないかと問いかける。彼は身元不明の死体が見つかるたびに現れるのだという。

 捜査の過程は所轄の刑事、日野の視点で語られる。彼が目にするのは警察に持ち込まれる様々な案件だ。ごみの不法投棄への対応、公園で小学生に声かけした不審人物の捜査……。本筋の事件とは関係のなさそうな出来事がからみあい、一つの謎が解き明かされるごとに事件の様相は変わっていく。
櫻田智也さん初の長編「失われた貌」 精緻なパズルで浮かぶ家族の悲劇

素人時代を含めて初めての長編「失われた貌」を刊行。「書き終えられてほっとしました」と語る作家の櫻田智也さん

『失われた貌』作者はこう語った

  「長篇をやるならアマチュア探偵ではなく刑事ものをやりたい」と語っていた櫻田さん。警察ミステリーを手がけた執筆した経緯について、「好書好日」に転載された朝日新聞のインタビューで以下のように語っています。

 どうも僕が好きなのは「名探偵」と呼ばれるようなタイプの人たちではないなと気づいたんです。それってつまりアマチュア探偵ではなく、職業探偵が好きということだなと思って。

 アマチュア名探偵の話だと、混迷を極めたあげくに名探偵が謎を解き明かすスタイルが多いと思うんですけれど、僕が好きなのは、トライアンドエラーを繰り返しながらも着実に進んでいるという実感が得られるタイプの推理小説なんですよ。それこそ最初に読んだ十津川警部ものも、犯人がこの人だと分かっているなかでアリバイを崩すためにうろうろしながら情報を集めていったりする。そういう足取りを楽しむ推理小説が僕は好きなんですよね。長篇を書くなら、自分もそれをやりたいと思いました。
櫻田智也さんの読んできた本たち 会社員の傍ら、物書きとして歩み始めた「デイリーポータルZ」(後編)

『失われた貌』プロはこう読んだ

  作家の辻真先さんは、「好書好日」に掲載された朝日新聞書評で「広い範囲の読者を満足させるに違いない」と評し、その魅力を以下のように読み解いています。

 至るところに伏線の釘が打たれミステリの強度を高めていること、二段構え三段構えで用意された人物の配置の精妙なこと、特筆したいのはそのどれもが、決してこれみよがしな技巧で飾られていないこと。すべてはさりげないたたずまいだから、してやられた気分は大きいのに、読後感が心地よい。ぼくは同業の古手だが、自作の随所で声高となり身ぶり手ぶりがオーバーになる、自分の器の浅さを思い知った。

 「ヒトを見つめる」と冒頭に書いた。見つめる目には作者の個性が現れる。ぼくはこの作家の視線になぜか懐かしいぬくもりを覚えた。描かれた登場人物たちを覗(のぞ)いてみよう。塩をまぶした味わいのキャラ入江、出世コースの光と影に染まる羽幌、チョイ役のバーのマスターにまで奥行きを与えて、脇役のひとりもおろそかにしない筆遣いに、作者の矜持(きょうじ)を見た思いがある。改めて拍手したい。櫻田智也「失われた貌」 精妙な伏線の釘と人物配置

櫻田智也さんはこんな人

 櫻田智也さんは1977年生まれ。北海道出身。2013年、昆虫好きの青年・エリ沢泉を主人公とした「サーチライトと誘蛾灯」で第10回ミステリーズ!新人賞を受賞しデビュー。2017年に、受賞作を表題作とした連作短編集が刊行。2021年には、エリ沢泉シリーズの2冊目『蝉かえる』で、第74回日本推理作家協会賞と第21回本格ミステリ大賞をW受賞。他著に、『六色の蛹』(いずれも、東京創元社刊)があります。『失われた貌』は、初の長編です。

 『失われた貌』は、2026年本屋大賞にノミネートされました。本書「このミステリーがすごい! 2026年版」(宝島社) 国内編1位、「週刊文春ミステリーベスト10 2025」国内部門1位、「ミステリが読みたい! 2026年版」(ハヤカワミステリマガジン)国内篇1位に選出されています。