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渡辺淳一文学賞、どう選んだか 純文学・大衆文学の壁払い「いい小説」 

渡辺淳一文学賞を受賞した高瀬乃一さん

 たとえば芥川賞は純文学の賞、直木賞は大衆文学の賞だとよくいわれる。毎年春に決まる「渡辺淳一文学賞」は、「純文学・大衆文学の枠を超えた」豊かな物語性を持つ小説に贈る賞。性格の異なる作品をどうやって比べ、どう受賞作を選ぶのか。15日に開かれた贈賞式で、選考にあたった作家が持論を語った。

 芸術性に富む「純文学」と、娯楽性を重視する「大衆文学」。受賞作について選考委員を代表して講評を述べた東山彰良さんは、その両方の作品が混在する候補作から受賞作を選ぶのは「なかなか難しい」と率直に語った。

 自身もかつて「僕が殺した人と僕を殺した人」でこの賞を受賞した東山さんは、今回初めてこの賞の選考に携わった。「同じジャンルならなんとか優劣をつけられるけれど、たとえば純文学と大衆文学の作品が拮抗(きっこう)した場合、どうやって選ぶのが正解なのか、頭を悩ませた」

 そう明かした上で、自身が作品を評価するバロメーターは「作品に織りこまれた噓(うそ)と真実のバランス」だと語った。「真実を求めすぎて、噓をないがしろにする文学は退屈。でもカタルシスを求めるあまり、噓に頼りすぎる作品も退屈」。受賞作は「噓と真実のバランスがとてもよかった」という。

 一方、今回で選考委員を退く浅田次郎さんも壇上でマイクを握り、「純文学と大衆文学の壁を払って、いい小説を選ぶ。これは楽しかったですね」と振り返った。

 「渡辺淳一先生がよくおっしゃっていたことでもあるが、つまるところ小説というのは、人間が描かれているか描かれていないかということ。純文学・大衆文学という区分けより、人間が描かれているかどうか。それが文学そのものです」

 選考委員5人の議論の末、今回選ばれた第11回受賞作は、高瀬乃一さんの「天馬の子」(KADOKAWA)。高瀬さんは「小説家になって面白くてたまらないのは、私ではない別の人生をいくつも作ることができること。とりたてて起伏のない人生を歩んできた私ですが、物語のなかで大きな冒険をさせてもらっています」と語り、拍手を浴びた。(編集委員・柏崎歓)=朝日新聞2026年5月27日掲載