井上理津子さん「本屋百景 独立系書店をめぐりめぐる」インタビュー 「偶然の出合い」こそ長所
書店の取材を続けるうちに、自身も小さな店を開きたいと思うほど、魅力にとりつかれた。店主がどんな本を選び、どう陳列するか。大手チェーンに属さない「独立系書店」に共通するのは、店主の個性があふれていても、決してとがってはいないことだと考える。「優劣つけがたいほど、全部面白いんですよね」
東京、千葉、神奈川、埼玉の1都3県と、大阪、京都にある102の書店を訪ね歩いた。店がある街の風景から店内の雰囲気、並べる本の基準、得意なジャンル、店主の来歴に至るまでを描き、雄弁な写真とともに見開きに詰め込んだ。新刊、古本の扱いを問わず、書架を貸すシェア型書店、ギャラリーやカフェを兼ねる店もあり、多様な姿が『本屋百景』を彩っている。
タウン誌記者を経て、大阪の飛田新地や、葬送現場のルポを刊行。個人商店や人々の営みに注目してきた。八百屋や魚屋、居酒屋は客に「おすすめ」を語るのに、本屋はどうかと気づいたのが、15年ほど前に書店かいわいの取材を始めたきっかけだ。
夕刊紙「日刊ゲンダイ」で、個性あふれる書店や図書館を訪ねる連載を2017年まで続けた。全国で書店が減り、出版市場の縮小が続く一方、近年は独立系書店の存在感が各地で高まっている。そんな書店に対象をしぼり、23年秋から同紙での連載を再開。知り合いの口コミや、Xに投稿される情報をきっかけに取材先の書店を探し出した。本書の元になった週1回の連載はいまも続いている。
店主の「推し本」を聞くことが、思いもよらない新たな出合いにつながっている。
大阪市の「本のすみか」では、中前結花さんのエッセー『好きよ、トウモロコシ。』を薦められた。知らない本だったが、読み進めたら涙が止まらなくなった。取材先では「出合えてよかった」と心から思える本を薦められる確率が高いことに驚く。「偶然の出合い」こそがリアル書店の長所だと痛感している。
「選び抜かれた本と店が帯びる空気感は、店主の表現そのもの。本屋は、店主さんの作品なんですよ」 (文・写真 伊藤宏樹)=朝日新聞2026年4月4日掲載