1. HOME
  2. 書評
  3. 「最適化幻想」書評 楽で最高な世界の意外なもろさ

「最適化幻想」書評 楽で最高な世界の意外なもろさ

評者: 秋山訓子 / 朝⽇新聞掲載:2026年05月30日
最適化幻想:効率が人を幸せにしない理由 著者:ココ・クルム 出版社:新潮社 ジャンル:社会・政治

ISBN: 9784105074616
発売⽇: 2026/03/25
サイズ: 19.1×2cm/288p

「最適化幻想」 [著]ココ・クルム

 出かける前には必ずグーグルマップを見る。地下鉄の何両目、駅のどの出口が早く効率的に到着できるか確認しその通りに――あれ?こっちのほうが早いじゃん!ということが何度もあった。
 最適化とは「可能なかぎり最高の世界」を探究すること。コスパやタイパとも近い。背後には複雑な「数学的モデル」とアルゴリズムがあり、世界を原子化、抽象化、自動化し、均質化する。半面、「遊び」は失われる。一度最適化のシステムにのってしまえばとても楽。ゆえに人は考えなくなる。
 だが最適化は逆にはたらくことも。オンライン最適化のアルゴリズムは、知名度の低いアイデアが世に知られる助けになるはずが、よく知られたものがますます注目を浴びるだけだった。
 そして最適化に支配された世界は、時にとても脆弱(ぜいじゃく)になる。2021年、テキサス州は記録的な寒波に見舞われ天然ガスのパイプが凍結、発電量が急低下。水処理施設も電力供給が止まり、冷え切った家で木炭や廃材を燃やし、水道水を煮沸消毒する羽目に。電力料金は跳ね上がった。
 最適化が実はそうではなかったこともある。アイオワ州のある農場で20年にわたってトウモロコシの二つの農法が比較研究された。一つは最適化を追究した連作で今の米国で主に行われている商業的な手法。もう一つは合成肥料や農薬を使わない伝統的な輪作。トウモロコシの価格が最高値になったこともあり、連作のほうが総収入は多く、自然な害虫駆除より殺虫剤のほうが簡単で労力も少なかった。だが純利益で勝ったのは輪作だった。害虫や雑草を駆除するための、高価な種子や農薬の使用量が少なかったからだ。しかも輪作のほうは土壌が改善した。
 一度最適化したら抜け出すのは大変だ。脱最適化は最適化よりずっと難しい。私もあなたも最適化の呪縛からは逃れられない、きっと。でも時々は自問したい。「最適化は最適か?」と。
    ◇
Coco Krumme 米国の作家、応用数学者。シリコンバレーで働いた後、太平洋岸北西部の離島に移住し執筆活動をする。
    ◇
松本剛史訳