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アイドルグループ「WHITE SCORPION」NATSUさんの大切な本 悩みと向き合い 探し出せた虹

「WHITE SCORPION」のNATSUさん=横関一浩撮影

 ステージで見せるきらめきの裏で、悩みや苦しみと闘ってきた。アイドルグループ「WHITE SCORPION」のNATSUさんは、グループきっての読書家だ。どうしようもない絶望と向き合った時、目指す姿に迷った時、心を救ってくれた本があった。

    ◇

 今から4年ほど前、高校2年生の3月。いよいよ受験シーズンという時に、心が深く沈んでいた。

 別の場所で、アイドルの研究生としてもがいていた時期。年に1度のオーディション合宿で、手ごたえを得られずにいた。ここを逃せば脱退――そう予告されていた、最後の機会でもあった。

 自分だけ置いていかれる。追い抜かれる。自分はどうしてあんな風になれないのだろう。そんな悔しさも悲しさも、とうに慣れてしまって、「心の静けさ」と向き合い始めてもいた。

 とはいえ、受験はしなければいけない。参考書を買いに出かけた近所の書店で、ある本の表紙に目が留まった。描かれていたのは、トラと少女の姿。「その目が動いたように見えて」手に取った。

 韓国の詩人、作家クルベウによる「大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした」だった。心を癒やすような優しい言葉の記されたエッセー集。勉強の合間に、眠れない夜に。開いては心を慰めた。

 「113ページに、私の好きな部分があって……」と本をめくり、静かに読み上げてくれた。

 〈人は誰しも、自分が見たいと願う虹を/心の中に1つずつ抱いて生きていく。/その虹を見るためには、/雨の降る日を乗り越えなければならない。〉

 「自分にとっての虹は何だろうと考えました」。それは自分のファンが幸せにしている姿。昇格できなくても、今見せられる精いっぱいをやろう。虹を見るまでは。そう心を切り替えたのだった。

 オーディションは不合格、事務所との契約は終了した。だが、ここで「虹探し」を諦めるわけにはいかなかった。オーディションを探して、たどり着いたのが「ホワスピ」という新天地だった。

 加入してしばらく、なりたいアイドル像と自分自身との間に、ギャップを感じていた。

 「想像するようなアイドルは、人前に出ることが大好きで、フレンドリーに誰とも話すことができて、という存在。自分はそういうアイドルにはなれなくて」

 みんな、よりも、一人ひとりに寄り添うことを大切にしたい。言葉は話すより、文字でつづる方が得意。どうも典型的なアイドル像に、はまらない。迷いを読み取られたか、ファンから「別のグループにいるNATSUさんが見たかった」と言われたこともある。

 そんな頃に、絵柄にひかれて山口つばさの「ブルーピリオド」を読み始めた。

 世渡り上手な高校生・矢口八虎(やとら)は、学校で見た1枚の絵に心を奪われる。その衝撃に突き動かされ、日本最難関の美術大、東京芸術大学入学を目指す物語だ。

 ある日、八虎は憧れの森先輩に、早朝の渋谷の街が「青い」と語る。先輩は「あなたが青く見えるなら/りんごもうさぎの体も青くていいんだよ」と応じた。

 「その言葉にすごく考えさせられました」と明かす。経験が違えば、価値観は違って当たり前。ならば自分だけのアイドル像を提示して、「WHITE SCORPIONで輝くNATSUという経験を、プレゼントすればいい」。

 まずグループのメンバーが交代で投稿するブログから、自分の個性を押し出していくことにした。一緒に過ごす猫との出会いを小説風につづると、温かいコメントが集まった。これもアイドル。誰に宛てたわけでもない、内面をつづった内容も投稿した。今やブログの名物となっている。

 「森先輩の言葉があったから、発信してみることができた。そのおかげで出会えた方々も多くいるので、すごく良かった」

 人のつづった言葉に心動かされ、自分を変えてきた。次は自分が。「出会って良かったと思わせられるような存在を目指します」

(照井琢見)

大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした クルベウ・著、藤田麗子・訳

 人間関係や仕事に恋愛、誰もが抱える悩みに応える32編のエッセー集。著者は事業に失敗し、自分の心を癒やすためのSNS投稿をまとめた「心配しないで」でデビュー。その作品がBTSのファン感謝イベントで紹介され、注目を集めた。

ブルーピリオド 山口つばさ・著

 作者は、東京芸術大学出身。「天才たちの集まり」と想像されがちなアートの世界を、スポ根調の青春マンガとして描き出す。書店員ら有志で選ぶマンガ大賞2020で大賞、第44回講談社漫画賞総合部門を受賞。アニメや実写映画にもなった。