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買い切れる明るさ 津村記久子

 仕事の必需品は、第一にデジタルメモ機ポメラと、第二にデスクライト、第三に紅茶だと思う。五月の中頃の忙しい時期に、五年ほど使ってきたデスクライト(Aとする)が壊れた。第二の必需品のくせに、今の居住地に引っ越してきてから急いで適当に買ったものだったのだが、仕事中はデスクライト、余暇は枕元に置いて読書灯、というように、一日の半分は点灯して活躍していた。

 数日間、ライトAがちらつく、という時間があったので、ウェブ通販でコードレスのデスクライトを吟味して注文した(Bとする)。プラグを毎日抜いて移動させる煩わしさがあった分、コードレスに憧れていたのだった。けれども、それが到着する前に前任のライトAが壊れたので、やはり急いで買いに行った。せっかくコードレスを買って移動させやすくなるのに、もう一つ買うのか? という疑問はあったけれども、その日も仕事がしたかった。

 通販での予習の成果で「売り場のその価格帯でいちばん明るいの」を買うことはできた。最大3200ルクスだ(Cとする)。前のライトAが最大1000ルクスだったことを考えるとえらい数字だ。ライトCは怖いぐらい明るい。点(つ)けると妙な満足感がある。本を読みたくなる。

 ライトBも無事到着し、ライトAがちらつくことに悩まされていたわたしは一躍デスクライト長者になった。ライトBは、コードレスな上に光色を選べて三十分タイマーがあったりする技巧派だ。一気に二つ買って五千円に満たない。「また急いでデスクライトを買った」ことに後悔するのかと思っていたが、タイプの違うライトを買ったせいか、あるのは長者になった充実感のみだ。

 特に喧伝(けんでん)されないまま、デスクライトが五年前より安く、明るく、高性能になっていたことにも驚いた。高性能になったスマホは、年々高額になり、人を依存させ、月額端末代金で締め付けてくるが、デスクライトの未来は明るい。皆、ライトだ。それで本だ。買い切りだ。=朝日新聞2026年63日掲載