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「移民の政治哲学」書評 国境管理は責任ある自己決定で

評者: 川出良枝 / 朝⽇新聞掲載:2026年06月06日
移民の政治哲学: 主権とグローバル正義の相克を越えて 著者:白川 俊介 出版社:勁草書房 ジャンル:政治

ISBN: 9784326303564
発売⽇: 2026/02/28
サイズ: 2.1×21.6cm/336p

「移民の政治哲学」 [著]白川俊介

 多くの先進国で移民受け入れの是非が深刻な政治問題化している。受け入れの大幅な制限を訴えれば、選挙で躍進する事態も常態化している。日本はOECD諸国の中で外国出生人口の比率が低い国だが、受け入れ数は増加傾向にある。近年は街頭やSNS上で移民政策をめぐる激しい応酬がみられるようになった。経済的利害のみならず、国民感情がからむだけに議論が荒れがちである。
 頭を冷やしてもっと建設的な議論はできないものなのか。本書は、そうした期待に応えるもので、政治哲学の手法を用いて問題に切り込む。移民に対して国境を完全に開放すべきだ、いや、移民の受け入れは国家の専権事項とすべきだ。この両極端の主張のそれぞれをときほぐし、あるべき着地点を見定めようとする。
 国境開放論は普遍的な個人の権利を擁護する。国境規制論は政治共同体の価値を重視する。両者の間において、著者は第三の道をとると述べるが、あえていえば、後者の方により近い。それぞれの国が自己決定によって国境を管理することを認めているからだ。ただし、重要なことは決める際の原則である。国民国家の自己決定は絶対的特権ではなく、その正統性はつねに問われ続けるものなのだ。
 著者が考えるあるべき自己決定は、「責任ある自己決定」と呼ばれる。国境管理の正統性が、単に国家の内部的特権ではなく、外部世界との責任ある関与をともなう必要があるという点が重要である。移民の排除が正統化されるのは、豊かな国の一員としてグローバルな構造的不正義を少しでも緩和する道徳的責任を果たす限りにおいてだ、というのである。
 今の日本では、少子化による労働力不足の解消のためのてっとり早い手段として移民に期待する傾向が強い。だがそれだけで良いのか。外部からあらたな市民を迎え入れ、ともに一つの国を造ることの責任を深く考えさせる一書である。
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しらかわ・しゅんすけ 1983年生まれ。関西学院大教授(政治理論、国際政治思想)。著書に『ナショナリズムの力』など。