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エルンスト・H・ゴンブリッチ「美術の物語 ポケット版」 時代潮流、芸術家の挑戦描く

 『美術の物語 ポケット版』は、とてもポケットに入らないボリューム感で、連綿と続く芸術家たちの物語と豊富な図版を収録。著者は「美術という心惹(ひ)かれる不思議な世界を前にして、道案内のようなものが欲しいと思っている人」に向けて書いたとのこと。世界中で売れているのは、時代ごとの美術の潮流についてわかりやすく解説しながら、芸術家の挑戦や研鑽(けんさん)の物語を書いているからでしょうか。時代が変わっても、伝統が連なっていて、過去の美術に影響を受けている作品も多く、伏線や共通点を発見できるのも嬉(うれ)しいです。

 時代の様式についても「ギリシャ・ローマ美術は、神々や英雄を美しく視覚化することを教えてくれた」「バロックの芸術家のねらいは、無上の歓喜や神秘的恍惚(こうこつ)感を引き起こすこと」と、端的に解説。ウィーン生まれの著者なので、特にヨーロッパの芸術への洞察が深く「ヴェネチアの内海の大気は、物の明確な輪郭をぼかし、まばゆい光のなかで色と色とがたがいに溶け合って見える」と、ヴェネチア美術の色使いへの影響を考察。考察ブームの今、考え方の手引書にもなりそうです。

 数多(あまた)の芸術家たちが紹介される中、印象的だったのはレオナルド・ダ・ヴィンチの世界一有名な絵画「モナ・リザ」。昨年ルーヴル美術館で現物を観(み)たとき、リザが生きていると感じたのですが、著者も「薄気味悪いほどだ」と同様の感想を抱き、その秘密についても解き明かしていました。「目元と口元」をわざとぼかして陰に溶け込ませて描いたことで、神秘的で感情を秘めたような表情になったようで、図版を見て納得。

 「美術の物語」に引き込まれるうちに美術館で実際に作品を観たい衝動にかられます。作品に感動した人々の心の中で「美術の物語」は続いていくのでしょう。=朝日新聞2026年7月24日掲載

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 長谷川宏ほか訳、河出書房新社・5489円。24年10月刊、4刷5万5千部。19年7月刊の大判は11刷4万4千部。原著は1950年刊。担当者は「専門用語を使わず、訳もこなれていて、広い世代に手にとっていただいています」。