私は何かをセンスという言葉で片付けてしまうのは好きではありません。センスとは相手の先天的な感性に由来する言葉だと思っているからです。
ですが、本書におけるセンスはそれとは違います。筆者は社会との上手(うま)い付き合い方、他人との関わり方をセンスとしています。思ってみれば、センスが良いという評価は他人がするものであって、社会との繫(つな)がりがないと生じません。
私はあくまでも社会から選ばれる側の存在です。仕事を貰(もら)う。雇われる。遊びに誘われる。その全ては、私が声をかけたくなる人間であるかに集約されます。その魅力=センスを磨き、社会との繫がり方を考えることで、センスのいい人と思われるのは生きる上で必要なことだと思います。
私は社会との関わり方に迷うことが多々あります。そんな私のような人のために、本書は、どのような心持ちでいたらいいか、という指針を示してくれます。
社会との関わり方という意味でのセンスは磨いた方がいいと思うし、私もセンスの良い人間でありたいと思います。ただ、魅力的な人間に思われようとすると無理してしまう人もいるでしょう。世の中は理不尽な要望で溢(あふ)れているし、それに応えていたら自分が消費されてしまいます。
でも本書は、社会に迎合しろ、好まれるように努力しろ、という趣旨はありません。ありのままの自分でいることは大切なことで、心を無理に社会の形に合わせる必要もありません。自分に無理ない自然体のまま、上手に社会と付き合うこと。それがセンスのいい人ということなのです。
本書では、他人に対してこのように考えるといいという道筋をいくつも用意してくれています。その時の自分の納得のいく、社会との付き合い方の指針が見つかるといいなと思います。=朝日新聞2026年7月11日掲載
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筑摩書房・1430円。13年2月刊。26刷8万2500部。著者は「暮しの手帖」元編集長。「仕事や暮らしの行き詰まりから脱出する方法として『センスのよさ』を挙げたところが共感を生んでいる」と担当編集者。