飼い犬・スリとの暮らしから生まれた絵本
――『ほんをよむいぬ』(303BOOKS)は、犬が本の魅力に夢中になっていく姿を描いた物語だ。子どもが文字を覚える様子をそばで見ているうちに、ワンワンも自然と文字を覚えていく。隠れてこっそり読書を楽しむ姿や、ページをめくるたびに変わる豊かな表情が愛らしく、読者の心を和ませる。作者のキム・ミヌさんに、本作を通して描かれた「本のある暮らし」について伺った。
「ワンワン」と呼ばれている主人公の犬のモデルは、子どもが生まれる一年前から飼っている犬のスリです。一緒に過ごしている中で、絵本の上に寝転がっていることがあって、犬が本を読めたらおもしろいだろうなと思いつきました。
絵本のように、犬って、こちらがしゃべっていることがわかっているんじゃないかというような瞬間があります。名前を呼んで話しかけると、こっちをチラ見して、なんだか言葉が分かってるような顔をするんですよ。質問をわざと無視するようなしぐさもします。そういった姿を見ていたら、絵本のストーリーはすごく自然に思い浮かびました。
ぼくはちょっとコミカルな表情を描くのが大好きで、このお話は、ワンワンが隠れてコソコソ本を読んだりする場面が多かったので、そのおどけた表情をたくさん描くことができて楽しかったですね。
この表情は眉毛を何十回も描き直したんですよ。ずっと描いていてやっと、最後にこれだっていうのが描けたとき、ああ、自分が描きたかったのは、このなんとも言えない表情だったんだとほっとしました。
生涯楽しめる本のある暮らし
――絵本の中で、「ワンワン ほん よめるよね?」と聞かれて、ウソがつけないワンワン。このまま見世物にされて本が読めなくなると心配するが、ユニの家族たちはもっと自由に本が読めるように、図書館に連れていってくれたり、老眼鏡を買ってくれたりする。小さい子が字を覚え、好奇心からだんだんと難しい本に馴染んでいくのと同じように、ワンワンの世界が本によって広がっていく過程がとても自然に描かれている。
我が家でも中1になる上の子は、家にあるたくさんの本の中から、大人の本も手に取って読むようになりました。優越感に浸りたい年頃なのか、ちょっと背伸びした本を選ぶんですよね。でも自分も子どもの頃を振り返ってみると、やっぱり中高生の時に「ニーチェ」の哲学書なんかをあえて読んでいたわけです。随分かっこつけてたなって思います(笑)。でも当時の本をいま読み直すと、いろんな感情がわいてきます。あのとき背伸びをしすぎたと思うこともあれば、感動して涙が出ることもありますね。昔話を読んで、大人になってからこんな話だったのかと改めて出会う良さも感じます。
絵本を作っている間にも、飼い犬のスリは10歳、11歳と年を取っていきました。目がちょっと白く濁ってきたので、この老眼鏡をかけたシーンは後から追加したものです。でも犬が「ちょっとだけ」本に興味を持ったという話ではなくて、「心の底から」読書好きになったっていう感じも出せたのではと思います。きっとワンワンは死ぬまで本を楽しんでいくんだろうなと思っています。
韓国にも日本にも、そこに本がある環境を
――近年、日本では子どもの「本離れ」が課題として挙げられている。では、韓国でも同じように、本を読まない子どもが増えているのだろうか。キムさんに、子どもたちと読書との向き合い方を尋ねた。
韓国も日本も同じですね。絵本作家として、ぼくもすごく心配しています。本やアナログゲームは、動画のように刺激がないから避ける子どもたちが多いです。それと、やっぱり親が読まないから子どもも読まないという傾向は感じます。ぼくの親が、大人として本と関わる姿を見せてくれたことは、いまのぼくにとても影響を与えています。
父は、本当に本が好きな人なんです。父が休憩するときは、いつもソファーに寝転んですごく分厚い本を読んでいました。その記憶が強くて、ああ、大人になるってこういう感じなんだなと漠然と感じていました。だから本を読まなくても、図書館に行ったり、本屋に行ったりして、そこに本があること、本自体を見ることに、かっこよさを感じていました。けれどもいまはもう82歳になって、字が細かすぎて読めないってすごく残念がっています。
ぼくはそんな父を見て、大人が読んでいるあの本を読んでみたい、あの本を読めるようになったら一人前なんだ、という感覚が育ちました。自分の子どもたちにも、本という存在を好きになってほしいと思います。本を読むのが好きにならなくても、まるでおもちゃと同じのような存在として受け入れてほしい。内容が難しくても、本の存在そのものを好きになってくれたらなと思います。
出版社での雑誌編集者を経て、2008年よりフリーランス。出産を機に、絵本と子育て、暮らしを中心に編集・執筆を行っている。現役の音楽教室講師でもあり、保育士経験があることから、親子関連の企画、運営にも携わっている。https://ehon-press.amebaownd.com/