その「禁止」は何を防ぐため?
「ゲームのIDとパスワードを教えてよ」
意外に大人も知らないが、他人のIDとパスワードでログインすれば、不正アクセス禁止法違反となりうる。子どもにもありがちな事例だが、SNSでのなりすましや、深刻ないじめに結びつくこともある。それが犯罪になりうると知ることは、自分や友だちを守るうえで重要だ。
一方、現実の出来事が犯罪に当たるかは、事情によって判断が分かれる。本書が断定を避け、「犯罪かもしれない」と慎重に表現しているところには、法律書としての誠実さを感じる。拙著『こども六法』では法律の辞書としての役割を最優先し、ケーススタディーを最小限にとどめたが、本書のように事例から法律へ興味を広げる本が増えることは、法教育の裾野を広げるだろう。
ただし、本書が売れている背景には懸念もある。子どもの望ましくない行為を「犯罪だから駄目」と牽制(けんせい)するために法律を使えば、法律は人を守るものではなく、子どもを監視し、脅すものとして伝わりかねない。重要なのは「法律で禁止されている」ことではなく、その禁止によってどんな被害や危険を防ごうとしているのかを教えることだ。法律が不十分であれば、変えたり新しく作ったりすることも必要だ、という観点も欠かせない。
「やってはいけないことを法律で教えられれば楽だ」という姿勢では遵法(じゅんぽう)意識は育たず、「ばれなければよい」という態度を招く。この危惧は本書の細部にも繰り返しにじんでいる。
法は最低限の道徳といわれる。法で禁じることにも、法とはせずに道徳にとどめることにも意義がある。法律を他者批判の道具にせず、道徳との違いと意義を伝える責任を持って子どもに手渡したい一冊だ。=朝日新聞2026年8月1日掲載
◇
金の星社・1540円。25年9月刊、14刷21万9千部。監修者は現役弁護士。「『犯罪』という強めの言葉とゆるいイラストのギャップなどが注目された。社会に漂う不安や大人も未経験の社会課題への対策として求める人も」と担当編集者。