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槇村さとるさん「ダンシング・ゼネレーション senior」インタビュー 素敵な人じゃなくて、生身の人を描く「少女」マンガ

槇村さとるさん=武藤奈緒美撮影

©槇村さとる/集英社

半世紀以上のキャリアは編集者たちとともに

――芸術選奨文部科学大臣賞受賞おめでとうございます。受賞を聞いたときはどんな思いでしたか。

 ありがとうございます。気がつけば本当に長く描いてきたから、続けてこられたことをお祝いするという意味で推薦してくれた方がいるんだろうなと思いました。

――1973年にデビューされて半世紀が過ぎました。現在も第一線で活躍中です。何か秘訣はあるのでしょうか。

 私の場合、マンガを続けられる条件が整っていたような気がします。いろんなことはあったけど、次から次へと助けてくれる方が現れて、途中で離脱せずにすんだのね。30代の頃かなあ、「マンガの歴史」みたいなムック本に自分の名前が載っていてびっくりしたんです。私は「昔の人」なのか⁉ って。でも、もう同期はほとんどいなかった。私はあまり一人で描くのが好きじゃなくていろんな編集者の力を借りてきたから、それでマンガ家として長生きできたのかもね。

――編集者とのタッグでやってきた感覚があるんですね。

 マンガ家と編集者は、脚本家とプロデューサーみたいな関係だと思います。私は「感覚」の人間だから、自分の好きなように描くだけ。社会を知らないので、外の世界をよくわかっている人がそばにいるとすごく強くなれるし、いくらでも描ける。私、難しいマンガ家なんです。編集者に対する期待がすごく高い。手がかかる。

――マンガ家として編集者に求めることはなんですか。

 ヒットを出すコツを知っていること(笑)。「今バラが流行っているからバラを描きましょう」って言うのはダメなんです。「じゃあ、菊を描きましょう」と言う人が必要。じゃなきゃみんな同じで、対抗できない。今は、編集者がバラを描くことを希望するし、新人の子たちは個性がまだ確立してないから言われたとおりにして潰れていくんですよ。編集者もマンガ家も、もっと一人ひとりが工夫しなきゃ。

槇村さとるさん=武藤奈緒美撮影

年齢を重ねた女性たちの魅力

――連載中の最新作『ダンシング・ゼネレーションsenior』の主人公・エリカも編集者です。時代ごとに等身大の女性を力強く描き続けてきた槇村さんですが、エリカは53歳。これまでとは一転、心と体が揺らぎやすい年代の大人の女性を描いています。

 いつものように少女マンガを描こうとしていたら、ある日編集長が「楽しく生きているおばさんがいるんですけど、おばさん描きませんか?」と言ったんです。最初はそんなの描きたくないよって思ったの。「おばさんとかおばあさんは自分自身でたくさん!」ってね。でも、しつこく頼まれるうちに、私自身が還暦で習い始めた社交ダンスを描こうかなと考えはじめました。

――槇村さんが還暦で社交ダンスを始めたのはどうしてだったのですか。

 大病をした後、踊りたくなって色々探したんだけど、なかなか飛び込む勇気が出なかったんです。それが、初めて社交ダンスを見た時に、衝撃を受けました。80代、90代の女性もいっぱいいて、先生にうやうやしく運ばれながら、ゆらゆらと踊っている。「あ、いいな」と思いました。一人だと体力の限界が見えちゃうけど、これなら死ぬまで踊れる。というか、踊らせてもらえる(笑)。それとね、踊っている人たちに、なんというか、ちゃんと重さがある感じがした。年をとっているだけあって、説得力や存在感がすごく強いんですよ。これは描くに値する凄みだと思いました。

――年齢を重ねた女性たち、描いてみていかがですか。

 楽。エリカは、50代に入って、体も心もガクガク。素敵な人じゃなくて、生身の人なんだよね。憧れの世界を描くのが少女マンガだと思ってきたけれど、『ダンシング・ゼネレーションsenior』はそうじゃないんです。ふらふらな現実。

©槇村さとる/集英社 『ダンシング・ゼネレーション senior』1巻より

――いろんな失敗をしながらも初めて踊り出すエリカは、リアルな存在ですね。

 今の社会って、自分はしっかりしていると思い込んでいる人が多くない? 仮面として会社でそういう自己イメージを保つのはいいけれど、固定しちゃうのは怖い。やっぱり時々はふにゃふにゃの素顔で過ごさないと、建前の顔ばかりが強くなっちゃう。それは良くないな、人を遠ざけるなと思っているので、エリカが壁にぶつかるところをどんどん描いています。ぶつかって、こわれるのが大事。

――『ダンシング・ゼネレーション』は、80年代の槇村さんの代表作。ジャズダンスに魅せられた10代の少女・愛子が成長していく物語でした。『ダンシング・ゼネレーションsenior』は、そのタイトルを引き継ぎつつも、愛子のその後を描く続編ではなく、まったく別の新しいストーリーです。

 わからないよ~、80代の伊吹先生ってキャラが、いきなり「私の本名は愛子」って言いだすかも(笑)。まあ、すでに描き切った話で続編を描くつもりはなかった。社交ダンスを踊るおばさんたちを描くことにしてタイトルを考えていたら、チーフアシスタントが「……ダンシング・ゼネレーション・ババア」ってつぶやいたの(笑)。それでタイトル決定。オリジナルの『ダンシング・ゼネレーション』は、有能な人が集まって成功し、そして解散していく話だったんですけど、『ダンシング・ゼネレーションsenior』は集っている人がみんな無能な上に寿命がない! だからいいなあと思った。生きてるって感じがするでしょう。

©槇村さとる/集英社 『ダンシング・ゼネレーション senior』1巻より

みんな、ドレスを着よう。踊ろう!

――エリカを社交ダンスに引きずり込む85歳の伊吹京子先生、とっても魅力的なキャラクターですよね。

 私はおばあさんを描くのが好きで、過去の作品にも年上の女性がたくさん出てくるんです。でもみんな、まだかっこいいんですよ。伊吹先生みたいにガバガバじゃない! 伊吹先生は振り切っていて、描いていて楽しいですね。主体性がある人。個性を確立していて、自分を信じている人。周りのルールとかは実は頭にないんですよね。自分がどうしたいかしか考えていない人で、結局はそういう人が一番幸せなんじゃないかと私は思っています。自分の欲望がはっきりしている。

©槇村さとる/集英社 『ダンシング・ゼネレーション senior』1巻より

 一方エリカって、自分のことが全然わかっていないんですよ。彼女が「ダンスをからかわれたことがトラウマだったんだ」と思い出すシーンがあるんですが、あれは描けてよかったな。みんな嫌な記憶ってあんまり深掘りしないじゃない。でも上手に触っておかないとリベンジもできない。傷もふくめてその人なのに。

――踊りながら伊吹先生が現れてエリカが仰天する第一話の見開きページ、大好きです。

 アハハハハ。強烈なシーンだよね。私はダンスをずっと描いてきたけど、ダンスってマンガと相性がいいんですよ。マンガはペラペラの二次元なんです。だけど、汗とか湯気とかが感じられる、ライブ感のあるものであってほしい。私は設定と展開だけのマンガには興味がない。絵で生きている感覚を描きたい気持ちに、ダンスは合うんだよね。

©槇村さとる/集英社 『ダンシング・ゼネレーション senior』1巻より

――50代のエリカ、80代の伊吹先生、20代のエリカの娘イチカ。世代の違う女性たちのゆるやかな連帯がこの作品の温かさにもなっています。

 私はやっぱり女性に興味があるんですよ。日本の社会の中ではまだまだ女性にはたくさんの抑圧がある。年齢を重ねることについてもね。それをちょっとでも外していけたら。

――槇村さんご自身は、年齢を重ねることについてどう感じていますか。

 あまり余計に気にしないようにしてます。もちろん体の変化は嫌なものだけど、それはもれなくくるからね。どういうレシーブの仕方をするかでちょっと変わるかなって感じかな。嫌々じゃなく、なるべくほがらかに、力を抜いて受け取りたいですね。

――最後に読者へメッセージをお願いします。

 年をとってから新しいことを習い始めるのってすごく楽しいし、おすすめです。急に「自分が可能性を秘めている」って気づけるから。実際できないことしかないから、可能性だらけ。ドレス着て。踊って! テンションあがるよ~。こうやって友達を社交ダンスに誘っていたのに、彼女は乗馬を始めちゃったんだけど(笑)。でも、なんでもいいんです。人生の中で「やってみたかったな」と思うことがあれば、絶対にやったほうがいい。

――なんだか勇気が湧いてきます。ありがとうございました。

©槇村さとる/集英社 『ダンシング・ゼネレーション senior』1巻より

槇村さとるさん=武藤奈緒美撮影