ISBN: 9784766431209
発売⽇: 2026/06/19
サイズ: 19×2cm/224p
「兵士とリゾート」 [著]阿部純一郎
日本の旧陸海軍には、兵士の精神的肉体的負担を軽減することが、戦力の維持につながるという発想が欠如していた。この点は、すでに第2次世界大戦中にリビエラに軍用保養地を建設している米軍とは、対照的である。本書は第2次大戦後にアメリカがアジアで戦った戦争に焦点をあわせ、兵士に休息と慰安を与えるための保養基地として、日本が大きな役割を果たしたことを明らかにした労作である。米軍の出撃基地・兵站(へいたん)基地としての役割に関しては、すでに多くの研究があるが、米軍にとっては作戦と不可分の関係にある保養・娯楽・観光といった側面に光を当てたところにユニークさがある。
本書によれば、占領期には、戦争が終結したにもかかわらず帰国がなかなか実現しないため、兵士たちは不満を募らせていた。この事態を重く見た軍幹部が導入したのが、日本の優良ホテルを接収した米軍専用ホテルでの休養を目的にした特別休暇制度だった。朝鮮戦争とベトナム戦争では、激戦で心身ともに消耗した兵士の士気低下が大きな問題となった。そのための対策の一つがローテーション制(一定期間の従軍の後に補充兵と交替させる制度)の導入である。そしてもう一つが、兵士の「休養と回復」を目的にした特別休暇制度であり、日本が主な休暇先となった。
日米安保条約のもと、日本政府は、米軍の施策を財政面で支えただけでなく、出入国管理などの面でも最大限の便宜を図った。さすがに講和条約発効後は、米軍の休養ホテルは次第に日本側に返還されていくが、現在でも米軍基地などの中には豪華な宿泊施設やゴルフ場が維持されている。
重要なことは、著者が米軍の施策にはらまれる矛盾にも丁寧に目配りをしていることだ。休養施設周辺に歓楽街が形成され、「基地問題」が深刻化したこと、ベトナム戦争の時のように、休暇先が米軍兵士の脱走経路となったことなどである。
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あべ・じゅんいちろう 1979年生まれ。椙山女学園大教授(社会学)。著書に『〈移動〉と〈比較〉の日本帝国史』など。