パーフェクト ヒューマン(1) [作]高橋一仁
信頼を得るには手間も暇もかかるが、人は一度信頼した相手には警戒を解き、無償の労働さえ惜しまない。では、そのような信者を集めた人間は次にどのような行動を取るのだろう? そんな興味からグイグイ読ませるのが本作だ。
主人公は容姿端麗で頭脳明晰(めいせき)の天才プロボクサー・世良優人。料理上手で性格もよく、周囲の信頼も厚いが、それは仮の姿。実は彼、同じ顔の5人の男がひとりの人間を演じることによって生みだされた偽りの天才なのだ。
完璧すぎてつっこみどころがない優人の前に立ちふさがる壁はないように思える。今のところ、疑いの目で彼を追うのは業界ナンバーワン雑誌のエース記者のみ。
物語は圧倒的才能の影で、彼に直接的あるいは間接的に関係することで傷つき、嫉妬に狂った人々に起きた悲劇も描いてゆく。強烈な光に照らされ、人の脆(もろ)さが色濃く浮かび上がる。
優人を演じる5人の秩序が保たれているのは、ある目的のためらしい。しかし、5人の性格はバラバラで、そこを端緒に生じるであろう綻(ほころ)びを予感させる。秘密を共有しながら、ギリギリのバランスで保たれている偽りの天才——彼らの真の目的は?=朝日新聞2017年5月7日掲載