「カープの初優勝は新幹線のおかげ、かもしれませんよ」
プロ野球の広島東洋カープが初めてセ・リーグを制したのは、球団創設から26年目の1975年のことだ。
この年の開幕前、山陽新幹線が岡山駅から博多駅まで延伸した。それまでセ・リーグで新幹線の恩恵をほとんど受けなかった、唯一の球団だった。「ハンディだった遠征事情が好転したのは大きかった」と分析する。
全国にチームが点在するプロ野球に遠征は不可欠。交通機関、特に鉄道とは切っても切り離せない、と両者の関係に目を付けた。36(昭和11)年にできたプロ野球のルーツである日本職業野球連盟時代から鉄道での遠征事情をひもといた。
当時の時刻表をめくると、東京—大阪は急行列車で10時間。さすがに効率を考慮して、多くの球団が1カ所に集まって試合した。それでも戦前に旧満州や北海道への遠征も組まれ、「本当に日本人は野球が好きなんだ」と実感させられた。
戦後にフランチャイズ制が確立するとホームとビジターでの試合が定着。チームが集中する関東・関西エリア以外の球団は大変だった。福岡が本拠の西鉄ライオンズは50年代後半に黄金時代を迎えるが、いったん遠征に出ると、数週間は九州を留守に。ホームとビジターで勝率が極端に違った。「野武士軍団は地理的不利にも勝ったんです」
鉄道を中心に執筆活動をする傍ら、プロ野球も愛する。神戸出身で親子2代の阪急ブレーブスファンだった。上京してからは東京応援団に入り、地方遠征にも足しげく通った。「当時はファンも応援団も本当に少なくて、義務みたいなものでした」
夜行列車で各地に赴いた。四国へ向かうための「瀬戸」、松江には「出雲」、札幌は「北斗星」——「二つの趣味が一緒にできて、地方遠征は本当に楽しかった」と振り返る。
かつては鉄道会社のチームが多かったが、阪急を含むパ・リーグ在阪私鉄3球団が消滅するなど、いまは阪神と西武のみ。「ちょっと寂しいですが、いまも野球観戦の足として鉄道の役割は大きい。神業のような臨時ダイヤなど注目してください」
(文・写真 宮本茂頼)=朝日新聞2018年4月28日掲載
編集部一押し!
- 売れてる本 千葉雅也「センスの哲学」 真のセンスはアンチセンスだ 大澤真幸
-
- 鴻巣友季子の文学潮流 鴻巣友季子の文学潮流(第19回) 翻訳が浮き彫りにする生の本質 小川哲、水村美苗、グレゴリー・ケズナジャットの小説を読む 鴻巣友季子
-
- 新作映画、もっと楽しむ 映画「がんばっていきまっしょい」雨宮天さん・伊藤美来さんインタビュー ボート部高校生の青春、初アニメ化 坂田未希子
- トピック ポッドキャスト「好書好日 本好きの昼休み」が100回を迎えました! 好書好日編集部
- インタビュー 柿木原政広さんの写真絵本「ねぇだっこ」 かがくいひろしさんや西川©友美さんの「伝える力」にパワーをもらった 日下淳子
- トピック 「第11回 料理レシピ本大賞 in Japan」受賞4作品を計20名様にプレゼント 好書好日編集部
- トピック 【直筆サイン入り】待望のシリーズ第2巻「誰が勇者を殺したか 預言の章」好書好日メルマガ読者5名様にプレゼント PR by KADOKAWA
- 結城真一郎さん「難問の多い料理店」インタビュー ゴーストレストランで探偵業、「ひょっとしたら本当にあるかも」 PR by 集英社
- インタビュー 読みきかせで注意すべき著作権のポイントは? 絵本作家の上野与志さんインタビュー PR by 文字・活字文化推進機構
- インタビュー 崖っぷちボクサーの「狂気の挑戦」を切り取った9カ月 「一八〇秒の熱量」山本草介さん×米澤重隆さん対談 PR by 双葉社
- インタビュー 物語の主人公になりにくい仕事こそ描きたい 寺地はるなさん「こまどりたちが歌うなら」インタビュー PR by 集英社
- インタビュー 井上荒野さん「照子と瑠衣」インタビュー 世代を超えた痛快シスターフッドは、読む「生きる希望」 PR by 祥伝社