「ウィリアム・モリスの遺したもの」書評 目指した理想と現実の両立
評者: 武田徹
/ 朝⽇新聞掲載:2017年02月05日
ウィリアム・モリスの遺したもの デザイン・社会主義・手しごと・文学
著者:川端 康雄
出版社:岩波書店
ジャンル:小説・文学
ISBN: 9784000222334
発売⽇: 2016/12/15
サイズ: 20cm/305,12p
ウィリアム・モリスの遺したもの―デザイン・社会主義・手しごと・文学 [著]川端康雄
草花など自然の風物を配した「モリス風」プリントデザインは今もインテリア用品等でよく見る。だが、生みの親のモリス自身が注目される機会は減った。
デザイン工房運営の傍ら文芸創作を手掛け、政治と芸術を架橋する独特の社会主義者としても活動した多才の人は、しかし、過去に葬られるべきではない。本書はその影響が途絶えず続いてきた軌跡を辿(たど)る。たとえばトールキンの『指輪物語』はモリスの散文作品に感化されている。日本でも宮沢賢治の「農民芸術概論」は「生活の芸術化」の思想を受け継ぐものだった。
そして「理想の書物」を追求したケルムスコット・プレスの出版活動の収支がバランスしていた事実を示し、採算度外視の美術品しか作れなかったとする後世のモリス評に反論する著者の旺盛な検証力は印象に残った。現実に疲れ、理想を手放しがちな現代社会に、理想と現実の両立を目指したモリス再評価の必要を静かに、それでいて力強く訴える。