レオ・レオニの「フレデリック」がモチーフの服をときどき着ているせいで、小学二年の時の「そして」をめぐる議論をたびたび思い出すようになった。なぜかというと、同じようにねずみを主人公にした「アレクサンダとぜんまいねずみ」を学習している国語の時間に、その議論は起こったからだった。台所ねずみのアレクサンダが、おもちゃのぜんまいねずみのウィリーと出会い、子供たちに大切にされるその生活をうらやましいと思うけれども、ウィリーとの友情を通してねずみとしての自由に気付く、という話だったように思う。
「そして」が紛糾したのは、感想文の発表でのことだった。クラスの誰かが、自分たちの文章の中で「そして」が使われすぎている、と気が付いた。「そしてアレクサンダはこう言いました。そしてウィリーはこう言いました。そしてわたしはこう思いました」という調子の作文が多かった。「そして」を多用すると我々の文章は拙(つたな)く見える!という発見に生徒たちは興奮した。わたしも興奮した。
先生も交えた議論の結果、代用として「それから」を使うようにしましょうということになった。「そして」も「それから」も大差ないかもしれないけれども、「そして」の半分ぐらいを「それから」に代えると、自分の文章がなんだか洗練されたような気持ちになった。今考えると、わたしが人生で受けた国語の授業の中でも、一、二を争う熱く高度な議論だったのではないか。
わたしは今も「そして」の使用に慎重だと思う。「それからアレクサンダはこう言いました。それを聞いたウィリーはこう言いました。なのでわたしはこう思いました」。この文の接続の部分にすべて代用できる「そして」は実は便利な言葉だ。あの授業から三十三年ほどが経ち、そろそろ「そして」をもっと使っていってもいいんじゃないかと思うようになった。でもあまり上手に使えない。この文も「そして」で締めたいけれども、うまい文が浮かんでこない。=朝日新聞2018年9月3日掲載
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