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「ニホンオオカミの最後」「肉食の社会史」書評 肉食化がオオカミを駆逐した?

評者: 山室恭子 / 朝⽇新聞掲載:2018年10月13日
ニホンオオカミの最後 狼酒・狼狩り・狼祭りの発見 著者:遠藤公男 出版社:山と溪谷社 ジャンル:動物学

ISBN: 9784635230094
発売⽇:
サイズ: 19cm/255p

肉食の社会史 著者:中澤 克昭 出版社:山川出版社 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784634151383
発売⽇: 2018/09/01
サイズ: 20cm/419p

ニホンオオカミの最後 狼酒・狼狩り・狼祭りの発見 [著]遠藤公男/肉食の社会史 [著]中澤克昭

 「オオーン。狼男のお出ましだい!
 ん? いまどき流行らないって。そう、ニホンオオカミは絶滅してしまった、オオーン。でも、みちのく岩手県の狼の最後をあとづけた熱い本が出たんだ。
 明治の初め、牛馬に害をなす狼を捕獲して県に届けると報労金がもらえた。著者は、その資料を県庁の書庫から発掘し、55件すべての現地に赴き、捕獲者の子孫を探して古老を訪ね、かすかな記憶を拾い歩いた。オレの憧れは、1879年2月に世田米村の猟師紺野市太郎さんに撃たれた『黒絞り』の雄。雪原に映えて精悍だったろうな。
 狼って、もともと農作物に害をなす鹿を食べるカミサマだったんだぜ。なのに開発で鹿が減って牛馬を襲うようになったとたん、銃を向けられる。ニンゲンの勝手で滅ぼしたんだから、滅びの記録くらい霊前に捧げなきゃ、オオーン」
 「ハーイ。いやに殊勝じゃないの、狼男くん」
 「出たな、肉食系女子。だいたい、あんたら明治以降の日本人が肉をもりもり食うようになって牧場が増えたのも、狼が逐われた一因なんだぞ。古来、日本人は仏教に帰依して、獣なんぞ食わなかったんだから。この西洋カブレめ」
 「ノンノン。その理解は短絡的って、最新の研究が子細に検証してるわ。この『肉食の社会史』って本によれば、日本古来の神は肉食を忌まなかったし、仏教が入ってからも、みんなが一斉に殺生禁断に染まったわけじゃない。身分による差も大きいし、殺生と信仰を両立させるための悩ましい葛藤もあったのよ。

 不思議なのは、効率の良い栄養源の肉を食べれば、生存にも繁殖にも有利なはずなのに、日本の場合、上流階級ほど肉食忌避が強いこと。西洋と逆。でも、社会は長期に安定してる。何か、わけがありそう」
 「オオーン、肉食イコール勝ち組じゃあないんだ。オレたちも食生活、見直すか?(笑)」
    ◇
 えんどう・きみお 1933年生まれ。教師を経て作家▽なかざわ・かつあき 1966年生まれ。上智大教授。日本中世史。