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ファンタジーがあるから頑張れる 競泳・鈴木聡美さん(前編)

文:熊坂麻美、写真:有村蓮

美しすぎてゾクっとする「黒執事」

――『黒執事』はダークファンタジーです。どんなところが好きですか?

 絵がとてもきれいで、上品で妖しい雰囲気に満ちた世界観に惹かれました。戦闘シーンがかっこいいところも魅力です。すべてにおいて完璧なセバスチャンが戦うシーンやシエルの命令をさらりとやってのける描写は、単純に「すごい!」って感心したり、美しすぎてゾクっとしたり。そういうきれいな世界の中に、ぷっと笑えるシーンや小ネタが散りばめられていて、表紙のカバーを外すと「あれ?」っていう仕掛けもあって、楽しみどころがいっぱいあります!

『黒執事』4巻、P72-73より ©2018 Yana Toboso/SQUARE ENIX

――個性的なキャラがたくさん登場します。お気に入りを挙げるなら?

 むずかしい選択ですが、ひとりを選ぶならアグニです。アグニは処刑される寸前のところで主人となるソーマに助けられ、心を入れ替えてソーマを一生守り抜くと誓います。その純粋さはほかの執事にはないところ。本当に「いい人」という感じで優しいし、セバスチャンと互角に戦うくらい強い。そばにいたら頼もしいだろうなあと妄想してしまいます。

 でもそんなアグニが、悲しいことに26巻で襲われたソーマを守るために死んでしまったんです……。弁慶を思わせる姿で息絶えた最期のシーンを見たときは、ショックでぼろ泣きでした。なんで死んじゃったのー! 大好きだったのにー!って。『ワンピース』でエースが死んだときと同じくらいの衝撃がありました。

 おもしろ系で言ったら、赤い死神のグレル・サトクリフです。セバスチャンのことが大好きなオネエキャラで、戦闘中におちゃめなことをしたり笑えるシーンがいっぱいあって、「これでも執事DEATH★」っていうセリフも好き(笑)。このグレルはアニメ版も必見です。演じていらっしゃる福山潤さんの声がすごくマッチしていて、めちゃくちゃおもしろいんです。キャラの魅力がアニメになってさらに輝いています。

――『黒執事』の中で共感したシーンはありますか?

 シエルの許嫁であるエリザベスの乙女心に共感しました。エリザベスは剣技に優れていてすごく強いんですが、大好きなシエルの前ではそれを隠してかわいい女の子として振舞っています。でもある事件で、強いことがシエルにばれてショックを受けて落ち込んでしまう。私も水泳をバリバリやっていて強い印象を持たれやすいですけど、好きな人からはやっぱり守られたいと思ったりもするので、「その気持ち、わかるよ!」と(笑)。

――この作品は作者の方が、友情や無償の愛を中心に据えない漫画として描いたと聞いたことがあります。「契約」で結ばれたシエルとセバスチャンの関係性についてはどう思いますか?

 たしかに、シエルは復讐のため、セバスチャンはシエルの魂をもらうためにお互いを利用していて、わかりやすい「絆」ではないけど、でもそこには「絶対に裏切らない」という信頼感やリスペクトもきっとあるんだと思います。クールに思えるふたりのやり取りのなかに、そういう部分が見え隠れするのも、この作品の見どころなのかもしれないですね。

きれいなシーンに癒される「魔法使いの嫁」

――『魔法使いの嫁』もファンタジーではありますが、また少し雰囲気が違いますね。

 『黒執事』がダークなら、こちらはやさしいファンタジー。主人公チセの人間らしい思いやりや、空を飛んだり水中で繰り広げられるきれいなシーンに癒されます。不思議な力を持ったチセが、人として魔法使いとして成長していく姿を見守りながら、空想の世界に浸って楽しんでいます。中二病と思われるかもしれませんが(笑)、私は昔から魔法使いに憧れていて。本屋さんでこの作品を見つけたときは「これだ!」って思いました。

 チセが使うのは杖をひと振りすれば簡単に奇跡が起こるような魔法ではなく、詩的な長い言葉を唱えたり、自然や妖精の力を借りたり、イマジネーションの力で魔法にします。それがすごくファンタジックで好きなところです。

――印象的なキャラクターというと、やっぱりチセですか?

 チセが一番好きですね。チセは控えめだけど芯があって優しい子。人に頼ることができなかったり自己犠牲の気持ちが強かったりするんですが、私もちょっと似ているところがあるので、つい感情移入してしまいます。「もっと周りを頼っていいんだよ!」とか「私もチセと同じことをするだろうなあ」とか思いながら、入り込んで読んでいます。

『魔法使いの嫁』5巻、P176より ©ヤマザキコレ/マッグガーデン

――とくに好きなエピソードはありますか?

 好きになった男性に才能を与える代わりに、その命を食べて生きていく吸血鬼の妖精リャナン・シーのエピソードです。リャナン・シーはある男性を本当に愛してしまい、自分のせいで彼が弱っていくことに葛藤を覚えます。その気持ちを汲み取ったチセは、何日も徹夜して魔力で「妖精の塗り薬」をつくり、最後にふたりがお互いの姿を見て話ができるようにしてあげるんです。ふたりが気持ちを確かめ合うシーンも美しかったし、「誰かの笑顔のために」身を削るチセの優しさに、とても共感して感動しました。

――この作品は、チセとエリアス、人と人ならざる者の恋愛物語でもあります。ふたりは一緒に暮らすことで、チセは家族の温かさを、エリアスは感情を知って、お互いになくてはならない存在になっていきます。

 ふたりの変化を見るのがとても楽しいです。エリアスが、チセと一緒にいて「内臓がぎゅっとなる」「腰がぞわぞわする」と言って戸惑いながら、〝気持ち〟を知っていく姿はキュンとなります。物語の中でルツ(チセの使い魔の妖精)も言っていたけど、最初「父と娘」のようだったふたりの関係が「息子と母」になり、この先はどうなっていくんだろう⁉と、今後の展開にワクワクしています。

――鈴木さんが惹かれるファンタジー漫画の魅力を教えてください。

 自分にはできないことや、現実では考えられないような世界を見せてくれるところですね。日常とはかけ離れた物語を味わうことで感受性や想像力が豊かになると思うし、水泳から離れて気持ちをリフレッシュするにもファンタジーはぴったりなんです。

 それに、これはファンタジーに限らないかもしれないですけど、人としての在り方やコミュニケーション、言葉の使い方もそうだし、漫画から学ぶことって結構あるんですよね。『黒執事』なら紳士的な言葉遣いだったり、『魔法使いの嫁』なら人に対しての優しさだったり。楽しいだけではなくて、いろんなことを得られるのが漫画の魅力だと思います。

――『魔法使いの嫁』と『黒執事』はどちらもイギリスが舞台です。ロンドンオリンピックで活躍した鈴木さんと、その意味でも縁があるのかもしれませんね。

 本当ですね! 今、運命を感じました(笑)。どちらもますます特別な作品に思えてきます。もし、チセみたいに魔法が使えたら、アグニが執事だったら……と、オフならではの妄想をこれからもいっぱい楽しみたいと思います。

>後編「ロンドン五輪後の挫折を乗り越え、今がある」はこちら