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衿沢世衣子「制服ぬすまれた」 才気に舌を巻く、予想の斜め上の展開

『制服ぬすまれた』 [著]衿沢世衣子

 夏休み、自主練で登校していた水泳部の女子高生がプールから戻ると、部室のロッカーから制服が消えていた。いじめか!? と思いきや、たまたま知り合った育休中の女性警察官の見解は外部の犯行。はたして真相は――という表題作はじめミステリー仕立ての5編を収めた短編集。
 女性警察官が職業意識を超えた使命感で少女と関わった理由、それがあったからこその謎解き、終盤6ページの鮮やかさにはため息が出る。
 年齢を偽りそば屋で働く地味顔女子中学生と失業中の青年との奇縁を描いた「ワニ蕎麦(そば)」と姉妹編「鉄とマヨ」、便利屋の青年とヤクザのバディ感にシビれる「カラスが鳴くから」、元ヤン美女の死体遺棄現場(?)を目撃してしまった大学生の推理が冴(さ)える「ハンドスピナーさとる」。いずれも伏線、予想の斜め上の展開、余韻を残すラストが見事で、ページのめくりと大ゴマの使い方も効果的だ。
 ハードボイルドな味つけは新境地。一方、細かな描写から人物の置かれた状況や人生を浮き彫りにし、白か黒かで割り切れない微妙な感情を掬(すく)い取る手並みは変わらない。同時期発売の『ベランダは難攻不落のラ・フランス』と併せ、その才気には舌を巻く。=朝日新聞2018年10月20日掲載