「真珠の耳飾りの少女」で知られるオランダの画家フェルメール。現存する35作品を撮影するため写真家の植本一子さんが7カ国にある17の美術館を訪れた『フェルメール』(ブルーシープ、ナナロク社・2160円)が刊行された。フェルメールは寡作だったため、これまでにも全作品踏破というファンにとっては夢の旅を実行した本はいくつかあるが、本書は植本自身がつづった約3週間の撮影旅行の日記や、作品を鑑賞する人々や美術館の周りの様子の写真も織り込まれ、読みながら旅している気分にひたれる一冊となっている。
絵画本にありがちな解説や歴史のうんちくがほとんどないのも臨場感を高めている。絵を見ることだけにまっすぐ集中できるからだ。植本自身、あえて下調べをせず、失敗のないデジタルではなくフィルムカメラでの撮影を選んだ。緊張してファインダーをのぞくうち、光が織りなす「素晴らしい一瞬を残す」ことに生涯を捧げた画家の思いに気づき、撮影に臨む自分の思いと重ねた日記の記述が心に残る。 (久田貴志子)=朝日新聞2018年10月27日掲載
編集部一押し!
- インタビュー 「尾上右近 華麗なる花道」インタビュー カレーと歌舞伎、懐が深いところが似ている 中村さやか
-
- インタビュー 鈴木純さんの写真絵本「シロツメクサはともだち」 あなたにはどう見える?身近な植物、五感を使って目を向けてみて 加治佐志津
-
- コラム 三浦しをんさんエッセー集「しんがりで寝ています」 可笑しくも愛しい「日常」伝える 好書好日編集部
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。 清繭子
- 朝宮運河のホラーワールド渉猟 黒木あるじさん「春のたましい」インタビュー 祀られなくなった神は“ぐれる”かもしれない 朝宮運河
- インタビュー 「親ガチャの哲学」戸谷洋志さんインタビュー 生まれる環境は選べない。では、どう乗り越える? 篠原諄也
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社