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「母さんがどんなに僕を嫌いでも」主演・太賀さんインタビュー いびつな愛のカタチ

文:五月女菜穂、写真:斉藤順子

原作には優しさやぬくもりみたいなものがあった

――今回のタイジ役を演じるにあたり、「歌川さんの人生を追体験するのはすごく勇気のいることだった」と仰っていますね。

 僕が今まで経験したことのない、とても壮絶な人生だなと脚本を読んだ時点で思いました。歌川さん自身が感じていたであろう傷みや悲しみを自分の実感として体現していくハードルの高さは感じてましたね。

 参考として原作のコミックエッセイを読ませてもらいました。歌川さんが描く優しさだったり、ぬくもりみたいなものをすごく感じたんです。物語のナーバスさより、もう少しポップな感じが印象に残っていて。喜怒哀楽にめちゃめちゃ揺さぶられました。歌川さんの中のリアルや切実さに揺さぶられました。そこに『母さんがどんなに僕を嫌いでも』の本質があるような気がしました。“タイジ”を演じる糸口になりそうな気がして、やれるかもと思いました。

 あとはシンプルに、この作品を映画にしようというプロデューサーや監督さんたちの情熱がすごく自分を突き動かしました。

――映画は、タイジがゲイであることにはあまり触れていませんでしたが、原作を忠実に表現していました。太賀さんは、先に映画を見るべきか、原作を読むべきか、どちらがオススメですか?

 好みでいいと思いますが、どちらも見ていただけるのであれば、先に原作を読んでいただけるといいかなと思います。映画が何を元にして作られているのかが伝わると思うので。

 歌川さんご自身、自分がゲイであることをオープンにされています。自分の中では、演じる上でその要素を無くしているつもりはないです。確かにあえて映画の中で言及しているわけではないですけど、僕は歌川たいじという人間を演じているつもりなので、そこはそのままやっています。

ひたすら脚本と対峙して役のイメージを膨らませた

――実際、歌川さんは撮影現場にもいらしていたそうですね。どんなお話をされていたのですか?

 映画に関することは具体的にはあんまり話さなかったように思います。僕もそれを避けていたし、歌川さんも干渉することもなく、見守ってくれました。歌川さんはお菓子や混ぜご飯を作ってくれたりして、現場を盛り上げてくださって。そういう歌川さんの端々に、タイジを感じるというか……。いろんな観察をさせてもらいました。

――あえて映画の話を避けたのはなぜですか?

 歌川さんの話を聞けば、理解したつもりにはなるのかもしれないし、知ることはできると思うんです。でも、いざそれを自分の体を通して表現するとなると、知識として得た情報だけではどうしても出来なくて。自分の中で、脚本と対峙して、この時はどういう気持ちだったのか、どんな景色が見えたのか、何を感じたのか…と、頭の中で膨らませていく作業がないと、どうしても堂々とカメラの前には立てないし、実感が伝わらない。

 そういうアプローチがあってこそ表現ができるのだろうと思って、映画の話はなるだけ避けたかったんです。自分の想像力を試したかったし、そこを信頼してほしかったとも思っています。

――タイジにとっては、混ぜご飯は母の味でもありました。実際に歌川さんが作られた混ぜご飯を召し上がったのですか?

 はい。めちゃくちゃおいしかったです。そして実際に、「お母さんを喜ばせるために、お母さんが作ってくれた混ぜご飯を自分で作れるようになった」という混ぜご飯を食べられたことは大きな経験でした。これを食べると食べないとでは、自分の中のタイジの質量が変わってくるというか。役作りをする上で、とても重要な要素でした。映画に出てくる混ぜご飯は全部歌川さん作ってくれたものですよ。

©2018「母さんがどんなに僕を嫌いでも」製作委員会
©2018「母さんがどんなに僕を嫌いでも」製作委員会

――母さん役を演じるのは吉田羊さん。撮影中、何か印象的だったことはありますか?

 母と息子という役ではありますけど、現場ではろくに話をしていないです。僕個人としては、羊さんとお話ししたいと思っていたのですが、役柄上、やはり話せなかった。

 撮影で会えない時も、羊さんが演じるお母さんをどんどん想像して、意識して、むしろ話しかけられないというか。そんな感じで僕は現場に臨んでいましたが、多分羊さんもそういう気概で来ていて、お互い演じる上でとてもいい緊張感を持ちながらやれたと思っています。カメラの前である種不器用ながらも向き合うことができたような気がしています。

 羊さんと会話を交わさずとも高いモチベーションでやれたというのは自分の中ではとても財産になりました。よく呼応し合えたと思います。たくさん羊さんに引き出してもらったし、もしかしたら自分も何かそういうきっかけを与えられたかもしれないなと思います。

とてもいびつだけど、愛しい人たちを見てほしい

――ばあちゃんを演じるのは木野花さん。末期の癌であるばあちゃんに「僕はブタじゃない」と泣きながら叫ぶシーンはとても緊迫していて、迫るものがありました。

 緊張しましたね。でも、木野花さんとお芝居をしていると、自然と包まれているような感覚にもなって。自分の自宅で色々台本を突き合わせて、考えて、想像して、現場に来て、木野花さんを目の前にして、触れると、こう思いもよらぬ方向に感情が揺れていく。お芝居の楽しさの一つでもあると思います。何度もできるシーンではないです。お互いガチンコで、すごくやりがいがありましたね。

 感情的になるシーンはいくつかありました。それぞれ表現の苦悩があるにはあるのですが、あくまで歌川さんの人生ですし、この映画をいいものにして歌川さんに喜んでほしいという思いがとても強くあって。いい緊張感でやれました。

――作品の中で、印象的だったセリフを教えてください。

 会社の同僚カナ役の秋月三佳ちゃんがいう言うセリフなのですが、「たいちゃん、うちの子になりなよ」という台詞ですね。その台詞に、友情に、母性に、僕はすごく感動しました。タイジはきっとそれを求めていたし、一番言ってほしかった言葉の一つだった気がします。

――原作は漫画ですが、太賀さんご自身、普段は本などをお読みになりますか?

 本は読みますね。ノンフィクションも純文学も読みます。小説には書いている人の人生がいっぱい詰まっているような気がして、それを垣間見たい、いろんなものを学びたいという意識で読んでいます。その人と対話するような気持ちですね。

――最後にどんな人に映画を見てほしいか、一言お願いします!

 多分10人いれば10通りの家族の形があると思います。この作品を見て、改めて家族を思ってみたり、友情の大切さを感じてみたり、普段は恥ずかしくて向き合おうとしてなかったもの、蓋をしていたものをもう一度見つめなすようなきっかけになってくれれば、この作品が生まれる意味があったのかなと思います。

 とてもいびつだけれど、愛おしい人たちばかりが出ているので、感じてもらえればいいなと思います。

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