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移ろう時代、感じた1年 2018年のマンガ界、京都国際マンガミュージアム研究員が振り返る

手塚治虫記念館「OSAMU TEZUKA」展ポスター(c)TezukaProductions

美術品としての原画、変わる価値

 ここ数年、国が本格的にアーカイブを推進し、その社会的価値が大きく変わりつつあるマンガ原画。今年、生誕90周年を迎えた手塚治虫の「鉄腕アトム」の原画が、フランスの競売で約3500万円で落札されたことは、その流れに大きな影響を与えそうだ。
 フランスでマンガ原画は美術品としての価値を確立しており、原画を紹介する展覧会も、日仏でその性質は異なる。フランスで制作された展示の里帰り展で、兵庫県宝塚市の市立手塚治虫記念館で24日までパート1が開催中の「OSAMU TEZUKA MANGA NO KAMISAMA」がその好例だ。日本の原画展で作品や作家を、マンガ史や美術史、思想史に相対的に位置づけて価値を解説することは少ない。だが同展では一般の美術展同様、それが意識され、手塚という作家を別の角度から知る機会となっている。
 しかし、私たちはマンガについてまで、市場的・美術的な価値の付け方を欧米から学ばなければならないのだろうか。(伊藤遊)

「ビッグコミック50周年展 半世紀のビッグな足跡」の展示風景

ジャンプとビッグコミック50周年

 創刊50周年を迎えた「週刊少年ジャンプ」と「ビッグコミック」。今年はその節目を記念した展覧会が話題に。
 「週刊少年ジャンプ展」は東京・森アーツセンターで、3会期に分けて開催。「ドラゴンボール」などの原画がずらりと並び、最大653万部に達した発行部数の推移や、メディアミックス展開も紹介された。マンガ産業に及ぼした影響力を感じるとともに、ヒットの背景にあるシビアな読者アンケートシステムなど、この雑誌だからこそ成し得た功績を改めて実感した。
 また「ビッグコミック50周年展」は、京都国際マンガミュージアムで開催され、現在も巡回中だ。「大人のためのコミック誌」という領域を開拓した本誌がいかに多様な題材と表現を生んだか。歴代作品が一堂に会する本展で知ることができる。
 出版不況が叫ばれ、作家の発表の方法も多様化する中、この2大マンガ誌は次の50年でどう変わるのか。または変わらないのか。楽しみである。(倉持佳代子)

長谷邦夫氏が作画を手がけた日本マンガ学会会誌「マンガ研究」の表紙

「ちびまる子ちゃん」、訃報に驚き

 8月のさくらももこの訃報(ふほう)には世間が驚いた。「ちびまる子ちゃん」は1990年から現在までテレビアニメが続く国民的作品。平成の終わりと重ねた人も多かろう。
 今年も多くの作家が亡くなった。「エコエコアザラク」の古賀新一(3月)、「食キング」の土山しげる(5月)、「鬼神童子ZENKI」の黒岩よしひろ(同)、「バチバチ」の佐藤タカヒロ(7月)、「幸せの時間」の国友やすゆき(9月)、「なな色マジック」のあさぎり夕(ゆう)(10月)。独特な大人向け原作で知られる狩撫麻礼(かりぶまれい)(1月)、アメコミを代表する原作・編集者のスタン・リー(11月)、劇作家でマンガの演劇化を手がけた高取英(同)も鬼籍に。
 長谷邦夫(11月)は赤塚不二夫との協業で知られるが、原作に小説、マンガの教育・研究と、マルチな才能の持ち主だった。氏が理事を務めた日本マンガ学会会誌の表紙には、ユーモアあふれるパロディーマンガが並んでいる。
 皆さんのご冥福を心から祈念します。(吉村和真)

海賊版サイト「漫画村」の画像。現在は閉鎖されている(画像を一部修整しています)

海賊版サイトから見えた課題は

 今年はネット上の海賊版サイトへの対応をめぐる議論が燃え盛った年でもあった。
 きっかけは、無断アップロードされたマンガを多数公開していた海賊版サイト「漫画村」の問題だ。その被害についてマンガ家団体や出版業界から声が上がったのに対して、同サイトは「広告してくれている」などと挑発。結局は閉鎖されたものの、その開き直りとも言える態度の裏には、こうした海賊版マンガを利便さなどを理由にカジュアルに利用してしまう層がいる現状が透けて見える。
 海賊版サイト問題はその後、対策として特定サイトへのブロッキング(アクセス遮断)を緊急的に実施することの是非をめぐる議論へと推移している。しかし、マンガが描かれ、そして読まれていくという、いわば文化の「生態系」の営みをいかに健全な形で継続していくかという課題は、まだ残されたままだ。
 昭和に生まれたマンガの「生態系」は、平成の終わりに重大な局面にさしかかっている。(雑賀忠宏)=朝日新聞2018年12月21日掲載