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彼女は片脚のスプリンター! 重松成美「ブレードガール 片脚のランナー」(第98回)

 前回は史上初の「バックギャモンマンガ」(『レオの柩』)を取り上げたが、スポーツマンガでも王道の野球やサッカーではなく、マイナーな競技を描いた作品には“未知の世界を知る新鮮な驚きと楽しさ”がある。ほとんどの読者がルールも知らないようなマイナー競技でも、作品さえ面白ければヒットする。それは多くのマンガファンに同意してもらえることだろう。

 カリスマ作家・井上雄彦が車イスバスケを描いた『リアル』を開始して、今年でちょうど20周年を迎えた。障害者スポーツ(パラスポーツ)のマンガというのは当時画期的だったうえ、累計1億2000万部突破の超ヒット作『SLAM DUNK』と張り合えるほど面白い。主人公の一人である戸川は骨肉腫で右脚を切断。同じく高橋は事故による脊髄損傷で下半身不随となる。知られざる車イスバスケというスポーツとともに、“理不尽な現実”をいかに受容し、乗り越えていくかを描いた名作だ。単行本は2001年から年に1冊のペースでコツコツと刊行されていたが、2014年に出た第14巻を最後に(『バガボンド』と同じく)中断されているのが残念でならない。本当に頼みますよ、井上先生!

 一方で障害者スポーツに対する関心は年々高まっている気がする。そんな中、昨年から「BE・LOVE」(講談社)で『ブレードガール 片脚のランナー』(重松成美)が始まった。『リアル』の戸川と同じく、骨肉腫で右脚を失った女子高生・鈴(りん)が「ブレード」(弓状の競技用義足)を着けて100メートル走に挑む物語だ。
 1年前に右脚を切断した鈴は生きる意欲をなくし、リハビリにもやる気がなかったが、義足技術者・風見とブレードに出会い、再び風を切って走る喜びを取り戻す。ブレードを着けて走るランナーを初めて見たときは、誰もが大なり小なり鈴のように驚くだろう。違和感のない外見を重視する通常の義足と異なり、ブレードは外見など度外視して「走る」ために特化した義足だ。その独特のフォルムには日本刀にも通じる機能美が感じられる。

 人物造形など、『リアル』と比べれば見劣りすることは否めない。明るく素直な鈴もクールなドSメガネの風見もいかにも類型的。骨肉腫になる前は全国レベルのスプリンターだった戸川と違い、特にスポーツの経験もなさそうな鈴が、高校で100メートル走を始めてすぐに頭角を現せるとも思えない。もっとも、鈴のスポーツ経験や身体能力はまだ語られていないだけかもしれないし、天下の井上雄彦と比べては可哀想だろう。
 今月発売された第1巻の終盤で、鈴は「関東パラ陸上競技選手権大会」でスプリンターとしてデビューすることに。ここからの展開に期待しよう。