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10年越しの長編SF、万感の完結

池澤春菜が薦める文庫この新刊!

  1. 『ミス・マープルと13の謎』 アガサ・クリスティ著 深町眞理子訳 創元推理文庫 972円
  2. 『天冥の標(しるべ)10 青葉よ、豊かなれ』(PART1~3) 小川一水著 ハヤカワ文庫JA 821~864円
  3. 『叡智(えいち)の図書館と十の謎』 多崎礼著 中公文庫 842円

 (1)セント・メアリ・ミード村のミス・マープル。白髪も上品なこの老婦人、実は素晴らしい名探偵。迷宮入りの事件を鮮やかにずばずば解決してみせる。アガサ・クリスティが生んだ、ポアロと双璧をなす名キャラクターだ。彼女の推理の源は、豊富な人生経験と人間観察。警察や医者といった並み居る斯界(しかい)の権威が頭をひねる難問を、「とてもはっきりしてるんです、わたしの目には」といとも簡単にひもといていく様は、爽快の一言。13の短編が詰まった本作は、まるでミントタブレット!(時折激辛が混ざります)。

 (2)長い長い物語が終わった。10年、そして17冊。ここでご紹介するのはその最後の最後(なのでくれぐれもこれだけお読みにならないように)。壮大な舞台、遠大な歴史、緻密(ちみつ)な設定、マクロとミクロを自在に行き来する視点。ロストテクノロジー、パンデミック、未来の性愛、異星知性、毎回テーマを変えながらも、その根底には一貫して“生きること”があったように思う。西暦201X年、地球から始まった物語は、思いも寄らない遠くまで、わたしたち読者を連れてきてくれた。通してシリーズを追ってきた者は、万感の思いで最後のページを読み切ったことだろう。ここには「SFに描けるもの何もかも」がある。

 (3)広大な砂漠の果てにそびえる、六角錐(ろっかくすい)の真っ白な塔。そこには古今東西あらゆる知識が収められているという。その門を守るのもまた、白き石の乙女。封印された扉を開くために、男は乙女が出す10の謎に10の奇譚(きたん)で答える。お伽噺(とぎばなし)あり、現代物あり、SFあり、趣向を凝らした物語。知識を追う喜びを知る人に、ぜひ読んでいただきたい。
 さて、最後に。2年間、本当にありがとうございました。3冊×28回、84冊の本と読み手との仲人を務めるような気持ちでした。世界にあふれるたくさんの本の中から、わたしが取り結べた縁が少しでもあったら幸せ。いつかお目にかかる日があれば「あの本、面白かったよ」と教えて下さいね。(声優・コラムニスト)=朝日新聞2019年3月2日掲載