私が編集に携わった「日本の名随筆」は最初の百巻が「花」「釣(つり)」「病」といった漢字1文字、続く百巻は「囲碁」「珈琲(コーヒー)」「俳句」といった2文字のテーマに沿った随筆のアンソロジー集で、最終巻が新約聖書学者の田川建三編『聖書』である。
その見本を田川さんに届けた折、「新約聖書」を訳してみませんかと投げかけた。その時は、そんな時間はないとけんもほろろに断られたのだが、数年後に田川さんから手紙をいただいた。新約聖書の翻訳を出したいという気はまだあるか、と。伺えば、かねて懸案の「新約聖書概論」を書くに際し、既存の新約聖書の翻訳は問題が多く、いちいちそれを指摘していたら一向に前へ進めない。ならば自分で訳した方が早かろう、とのこと。
というわけで始まったのが『新約聖書 訳と註(ちゅう)』全7巻全8冊だ。いずれの巻にも厖大(ぼうだい)な註が付され、既存の日本語訳聖書における誤訳、見落とされた視点なども事細かに指摘。文献もギリシャ語、ラテン語、英仏独語と多岐にわたる。となれば、浅学の編集者にできることは、ただ原稿があがるのを待つのみ。
一昨年、全巻完結し、本文訳のみをまとめたのが『新約聖書 本文の訳』だ。この大仕事が一段落し、田川さんは今「新約聖書概論」にとりかかっている。そこで田川さんから「俺より先に死ぬなよ」と。「つくる」のではなく、待つことも編集者の大事な仕事と肝に銘じている。=朝日新聞2019年4月10日掲載
編集部一押し!
-
著者に会いたい 森勇一さん「ムシの考古学図鑑」インタビュー 歴史の断面が見えてくる 朝日新聞文化部
-
-
インタビュー 「こどもの本総選挙」第1位は「大ピンチずかん3」 作者・鈴木のりたけさんインタビュー 「困難や失敗の中にも面白いことが隠れている」 加治佐志津
-
-
イベント 内田有美さん「おせち」が第1位に! 「大ピンチずかん」で人気の鈴木のりたけさんは3作がTOP10入り 第18回「MOE絵本屋さん大賞2025」贈賞式レポート 好書好日編集部
-
人気漫画家インタビュー 成田美名子さん「花よりも花の如く」完結記念インタビュー 運命に導かれるように「能」と向き合った24年間 横井周子
-
鴻巣友季子の文学潮流 鴻巣友季子の文学潮流(第34回) アトウッド、桐野夏生、エヴェレットに見るディストピアへの想像力 鴻巣友季子
-
朝宮運河のホラーワールド渉猟 ホラーの鬼才が描く、怪奇幻想×戦争小説 飴村行さん「粘膜大戦」インタビュー 朝宮運河
-
インタビュー 【サイン入り本プレゼント】一木けいさん「嵐の中で踊れ」インタビュー 避難所で起きた再生の群像劇 PR by NHK出版
-
インタビュー 湊かなえさん「暁星」インタビュー 作家として「言葉」に向き合い、新たな扉開いた PR by 双葉社
-
トピック 【プレゼント】第68回群像新人文学賞受賞! 綾木朱美さんのデビュー作「アザミ」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】大迫力のアクション×国際謀略エンターテインメント! 砂川文次さん「ブレイクダウン」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】柴崎友香さん話題作「帰れない探偵」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
インタビュー 今村翔吾さん×山崎怜奈さんのラジオ番組「言って聞かせて」 「DX格差」の松田雄馬さんと、AIと小説の未来を深掘り PR by 三省堂