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#21 湯けむりとときめき 大分・別府

別府の海地獄。コバルトブルーの湯から、もくもくと湯けむりが上がる

 お土産を買う時間が好きだ。正確には買わなくてもいい。選んでいる時間が好きなのだ。もともと物欲はそんなにある方ではないのだが、旅に出ると、土産物屋の隅から隅まで目を光らせてしまう。世界一周旅行をした時も、買い集めたお土産がバックパックの容量を超え、途中でモロッコから空輸したほどである(そして写真展と一緒に雑貨の販売会をした)。「この機会を逃したら、きっともう出会えない」という思いがあるので、とにかく気になったら買ってみることにしている(この瞬間、大人って最高に楽しいなと思う)。

 今年2月、取材で大分県の別府市を初めて訪れた。ホテルのPRがメインではあるのだが、定番の「地獄めぐり」を数カ所まわり、別府海浜砂場で砂に埋もれ、ランチで別府冷麺を食べて、カフェでおやつまで食べた。カメラマンと一緒に分刻みの弾丸取材。そのまま1泊2日の旅程で帰ることもできたのだが、翌日もちょうどスケジュールが空いていたし、お土産もゆっくり見たかったので、1人で延泊を決めた。

SELECT BEPPUで買った土産物たち。どうやったら可愛く写真が撮れるか考えるの結構好き。
SELECT BEPPUで買った土産物たち。どうやったら可愛く写真が撮れるか考えるの結構好き。

 別府駅から歩いて5分ほどのところにある「SELECT BEPPU」。別府のオシャレでかわいいお土産が集まるセレクトショップである。このお店の存在を知ったのは、一人で泊まったゲストハウスにあったチラシだ。インターネットの情報も役立つことも多いが、案外、面白い話やおいしい情報はアナログなところに転がっている。開店前から1人で店に並ぶ。店員さんも「遠方からですか?朝早くありがとうございます」なんて声をかけてくれる。そして、いよいよ開店。店に入った瞬間、あぁ好きだ、と思った。恋にも似た感覚。ときめきであふれていた。

 例えば、ilocami。別府の土産品のパッケージを製造する紙器メーカーが、デザインの力を生かして生み出したブランドだそうで、紙で作ったピアスが売られていた。ストーリーもあるし、何より可愛いし、自分用のお土産に即買いを決めた。

 それから、別府の老舗美容室が開発した天然温泉石けん「別府八湯せっけん」。鉄輪温泉、亀川温泉、柴石温泉など別府の8つの温泉を楽しめる優れもので、パッケージも可愛い。せっかくならと8種類全て買った。これなら誰かにプレゼントもできると思った。

別府八湯せっけん。効能もさることながら、色使いも可愛い。
別府八湯せっけん。効能もさることながら、色使いも可愛い。

 …まぁそんな感じで40分ぐらいだろうか。お店の中を物色し続けた。最高に楽しくて、幸せな時間だった。

 甲斐みのり『乙女みやげ』(小学館)という本がある。甲斐さんが見つけた日本全国の「乙女」なお土産たちが載っているカタログのような本で、見ているだけで幸せになる。初版は2007年で、今から10年以上も前の本だが、掲載されているお土産は、色褪せない可愛さを放つ。

あの人にあげたい。あの人に似合うだろう。あの人は、きっと喜んでくれるはず……。そんなふうに、買ったものの背景には、たいてい誰かの顔や、名前が浮かんでいる。(はじめに)
おみやげ探しにでかけるため、旅しているのかと思うことさえある。駅で、街角で、その土地ならではのなにかを求め、きょろきょろ、うろうろ。これだというものをみつけたとき、旅の醍醐味を覚える。(48ページ)

 インターネットでご当地品を取り寄せることもできる時代だけれど、旅先で出会ったモノにいちいちときめきながら、愛でながら、何を買おうかあれこれ悩む時間は大切にしたい。

別府から湯布院に足を伸ばした際に買った「ジャズとようかん」。オシャレでしょ?
別府から湯布院に足を伸ばした際に買った「ジャズとようかん」。オシャレでしょ?