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「文化大革命五十年」書評 中国現代史の大きな謎に迫る

評者: 出口治明 / 朝⽇新聞掲載:2019年04月13日
文化大革命五十年 著者:楊継縄 出版社:岩波書店 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784000613071
発売⽇: 2019/01/30
サイズ: 20cm/236,48p

文化大革命五十年 [著]楊継縄

 僕の学生時代、中国の文化大革命(文革)は大きな謎だった。何を目的としているのか? どこへ向かうのか? その問いの答えはまだ見いだせていない。文革の始まりから五十余年、本書がその答えの一端をのぞかせてくれた。
 文革は、毛沢東、造反派、官僚集団の三角ゲームだった。激動の10年、中国はある意味でそのすべてをさらけ出した。中国の赤裸々な姿がこの時期ほど鮮明に現れたことはない。そして文革の勝利者は官僚集団であり、敗北者は毛沢東を崇拝する造反派であった。これが著者の結論である。
 新華社の記者であった著者は、目を背けたくなるほど壮絶な文革の実態を冷静に暴いていく。著者は文革後の改革開放30年を「権力市場経済」が進行し権力の濫用と資本の貪欲とが結合して悪の巣窟となってしまったと総括する。権力の抑制均衡と資本の制御が必要である。この声は北京の為政者に届くのだろうか。