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滝沢カレンの「限りなく透明に近いブルー」の一歩先へ

撮影:斎藤卓行

ここは福生で暮らす、若者たちの物語だ。
高校もろくに行かない6人のグループがあった。
だけど絆は強く毎日毎日一緒にいる仲良しな仲間だった。

ツヨシ
トシ
アキラ
ミユ
サエ
ルカ

の6人。

――

薄暗い夜が始まると共に福生の街はたちまちガヤつきだす繁華街があった。
ライトスポットにアスファルトが照らされそこには英語や日本語が動き出す。
外国の人に混じり、とびきり若いグループは今日も、悪い意味で優しい大人から横流しでお酒を飲み、タバコを吸う。

ツヨシとトシ。

ツヨシ「おいおい、おっせぇよなぁ? あとの3人たち、かぁちゃんに手首でも引っ張られてるのかぁ? おらぁ!」
ツヨシはビールの空き缶を握りこぶしで握り腕力の強さをひそかにアピールした。

ツヨシはアキラと幼馴染。
ツヨシは一番やんちゃで荒れているが友達思いで芯の通った男だ。

トシ「なにしてんだぁ? ツヨシ相変わらずの握力やってんなぁ。アーノルドの次のようなもんだなぁ」
アキラ「俺もまたジム通わなきゃなぁー! お金払ったまんまだぜ!」
トシ「おい、それはもったいなすぎるだろぉ!」

アキラは175cmだがマッチョ体質であり色黒に励むイケイケ男子だ。
トシはひょろっとした188cmにペンギン頭がトレードマークだったためなんの力も感じない男だ。
そんな膝を突き合わせ座っていると、向こう側の階段から、明かりに迎えられてるようにキャピキャピしたお祭り騒ぎな女3人がやってくる。

ルカ「きゃーっ! いたたっ、あっ! 仲間たちよ、待ってたかぁい!? 今日も声が潰れるまで歌うわよー!!」
最後の一歩で高いヒールを恨むほど足をくじいた。
ルカは女の中のボスと言ってもおかしくはない。
165cmで小顔にロン毛茶髪の一番校則に鈍感で、先生を毎回驚かす持ち主だ。

トシ「ルカっ! うす! やっときたけど、もう酔ってるのかぁ?」
サエ「いやそうなのよっ! テストで60点とって喜んじゃってさ。家から料理酒飲んできちゃったみたい」
サエはこの中ではお姉さん的頼り甲斐があり、何かあればサエに相談したり、暴れん坊仲間には欠かせない1人だ。

ツヨシ「ったく。ルカらしいなぁ(笑)。料理酒だけはやめてくれっつっただろぉ、おふくろさん料理に困るゾォ? 親は案外大事だぞ、買って帰れよー」
サエ「こんなに久々だけどツヨシの言うとおりよ~。いくらいい点とったからって、お母さんに申し訳ないわよ!」
ルカ「それに味も良くないから帰りにお詫びに料理酒買って帰る」
ミユ「すごい! えらい! それでこそ、私たちのボスよ!」

ミユは一番小さくて可愛い系女子だ。
甘えんぼうでいつも人の話をあまり聞いてないため全然輪の中に入りきれていない。
トシ「いや、ミユ聞いていなかっただろ! いつ会っても耳の立場を疑うぜ~」
ミユ「聞いてるっつーの!」
こんなたわいもない話が夜空に見られながら繰り広げられていた。

時間は夜の深さを思い立たせる1時を回っていた。
アキラ「そんなこんなでこの仲良し軍団も集まったことだし、夜の街をパトロールでも行きますか!」
サエ「ちょっと警察官らしき発言やめてよね~。私たちと言ったら単なる徘徊でしょー!」
ルカ「もらえるもんはもらいましょ!」
そう言うと若者仲良し軍団は夜のきらびやかなネオンに消えていった。

チュンチュンッチュン。

おはよう太陽がネオンの明るさを知らないようにカンカンと照り弾け始める朝。
繁華街は嘘だったかのように静まり、誰もいなかった街のように朝が始まる。
いつもの溜まり場の公園で、最初に目を覚ましたのは、サエとトシだった。

サエ「あぁぁあー! やだ! また朝よ。帰ってメイク落とさなきゃ」
トシ「うぅ、呑みすぎたぁ。おーい、みんな起きろー」

トシの張り切りな掛け声と共に他の4人も目覚める。
ルカ「わぁ、気持ち悪っ。帰ろー。また夜お祭り騒ぎのためにもよくねよーっと」
サエ「あ、ルカ、お母さんに料理酒ね」
二日酔いながらも気を支えるのはやっぱりサエの立場だ。

ルカ「そうだった。忘れずにしなくちゃね」
ツヨシ「なんか異常に腹がいてぇなぁ。飲み過ぎかな。うぅ痛い」
やけに腹を痛がるツヨシがいた。

トシ「お前、またゴミ箱からなんか食べたんじゃなぁいのかぁ? 何が入ってるかわからない時代なんだからゴミ箱漁るのやめてくれぇ」
トシはニヤケ眼でツヨシの肩をポンポンした。
みんなもとくにツヨシを薄ら笑いする程度で、起き上がり公園を後にした。

ツヨシは帰り際も悶えながら必死に歩いた。
ツヨシは時々腹痛に悩まされることがあり、その度にみんなからゴミ箱の物を漁って食べていると思われていた。
ツヨシ自身もまたこの痛みかと、嫌々ながらも耐えることしかしなかった。

だが、この日は違った。
ツヨシは家に帰ると、急いでトイレに駆け込んだが、なんにも体からは出ず、ただただ痛みだけが身体を襲う。
ツヨシ「いってーなぁ。なんだよこの腹。何が不満なんだよ」と涙滲ませながら、腹を力こぶしで殴り痛みを散々な形にした。

独り住まいなため誰の協力もない。
トイレにこもること2時間。痛みは激痛から激激痛に変わり、ツヨシはついに痛みに耐えられなくなってしまった。

ツヨシ「う、うぅ・・・・・・」
そのまま気を失った。

――

それぞれは家に帰り、普通の人間とは真逆の生活をまた送るのだった。
そして太陽と目を合わせることはないまま、また暗闇の夜空が現れた。
繁華街はまたぼやぼやと楽しげな声が響いてくる。
そして今日もわんぱく者な男女が街に吸い込まれるように寄ってくる。

トシ「いっやー、昨日も楽しかったなぁ」
ルカ「本当よね。毎日こんなお酒飲んで歌ってたまらなく幸せ感じちゃってるうちらね!」
サエ「楽しすぎたー! 毎日ラッキー! あ! てゆうか、ツヨシは?」
アキラ「起きてから連絡してんのにずっと返ってこないんだよなぁ」
ルカ「昨日楽しすぎてまだ疲れて寝てるのかなぁ? 昨日相当歌って飲んでたからね」
アキラ「ありえるありえる(笑)」
サエ「あ、でも確か昨日帰るとき腹痛大変そうだったよね? 大丈夫かな」

さすが周りが見えてるサエだった。
するどい記憶が仲間意識を呼び覚ました。

トシ「たしかにちょっと不安だな。連絡取れないとなると」
アキラ「まぁ寝てるだけだろうけど、ちょっと心配っちゃ心配かぁ・・・・・・」
サエ「さすがにちょっと家見に行かない?」
ルカ「でもただの寝ぼけてたりして(笑)」
相変わらずにルカは上の空発言だったが、みんなで意見を一致させて、家に探しに行くことにした。

ツヨシの家の窓から見える光はなかった。
ルカ「やっぱり寝てるんじゃない??」
サエ「そうかなぁ? 見てみようよ。アキラとトシ見てきて!」としっかり者のサエがみるみる男たちの背中を押す。

アキラ・トシ「お、おう」
ふたりはツヨシが住んでる階まで階段をかけ足に進む。
ルカ、サエ、ミユが下でそわそわしながら待っている。
すると・・・・・・

トシ「おーい! おまえらっ。いますぐこいっ」
トシが汗を嵐のような場所を通ってきたかのような吹き出方をしながら、女子たちを焦らす気持ちを最大限にさせた。
女子たちは目をギョっとさせながら急ぎ足でツヨシの部屋まで行った。

サエ「ツヨシ! 大丈夫?!」
女子軍団が慌てて部屋に入ると、ハッとした。
ツヨシはトイレにもたれかかるように、眠るように倒れていた。

トシ「おい! ツヨシ大丈夫か? おい!」
アキラ「ツヨシ大丈夫か? 起きてくれよ」
男子たちがひたすら声をかけるが返事らしき声は聞こえてこない。

ルカ「と、とりあえずわたしは救急車呼ぶっ!」
サエ「ルカお願い! ミユなにか枕になるようなタオル持ってきて」

サエが器用なほどに女子たちをまとめる。
さすがのミユも緊急を知ったように急いでタオルを取りに行く。
ツヨシを床にゆっくり寝かせた。

サエ「こゆときってあんまり動かさない方がいいって確かこのことよね?」
アキラ「あ、あぁ。頭打ってたらまじやべぇからなぁ。動かす気持ちは一旦抑えようぜ」
ルカ「そうだね。とにかく救急車をまとっ」

それから5~10分後に、救急車が来た。
静かな福生の住宅街に、ややこしいほどの救急車の音が鳴り響く。

救急隊員「到着いたしました。一体どしました?」
サエ「あの友達なんですが、部屋で倒れてしまって、全然起きなくて・・・・・・」
救急隊員「落ち着いてください。とりあえず病院でみてもらいますから、みなさんも救急車に乗ってください」

仲良し軍団はみんなで救急車に乗り、病院へと向かった。
ミユの目からは大粒の涙が、不安さを増させていた。
あんだけやかましい声量の男女もここはグッとみんな息を呑み、ツヨシの回復だけを願った。

病院につき、精密検査室へと入った。
2時間くらい男女は待った。
すると、医者から、「コンドウツヨシさんの身内の方ですか?」と男女軍団に近寄ってきた。
「は、はい! 私たちツヨシの仲良しです」
サエがはっきり答えると、医者は「お父さん、お母さんは?」。

アキラ「ツヨシ、親いないっす。小さい頃からずっと1人っす」と鈍く答えた。
医者が「あ、そうなのか。じゃあみんなこっちにきてくれるかい?」と説明室に案内された。

説明室に入り座ると医者はレントゲンを一瞬睨みつけるように話し出した。
「ツヨシくんの体は、血液のガンに侵されてます。それも見たこともない速さで血液をむしばんでいて・・・・・・すでに胃や大腸にも転移が見つかっている」

暗い部屋ではなかったはずの説明室に暗闇が襲ったように、男女は目も合わせられずに目を見開きそれぞれ吹き出す涙をこらえた。
医者は追い詰めるよう続けた。

「辛い話だが、ツヨシくんは長くない。もって一ヶ月ってとこかもしれない。それでお母さんやお父さんに伝えることは可能かな?」

――

時間が止まったような空気が流れた。
声が遠くから聞こえてくるような空間で、現実ではない気がしてたまらない男女が背中を小刻みに揺らしながら、あるいは大きな深呼吸をして自らを落ちつかせてるような、それぞれで悲しみを受け止めきれない様子だ。

アキラ「ツ、ツヨシの両親はもう・・・・・・あいつが小学2年の時に交通事故で亡くなったんす。アイツを後部座席に乗せたまま・・・・・・」
ツヨシはアキラには幼馴染だったこともあり全て話していた。

その後男女の記憶はない。
医者の詳細説明だけが説明室に響き渡る。
もう誰も医者の声なんか聞こえていなかった。

それから、男女軍団は毎日病院に通った。
ツヨシは若かったこともあり進行が新幹線のごとく早く、白血病末期のツヨシにはどんな治療方も手はなく、何をしても間に合わないと言われた。
ただただ過ぎ去る毎日を本をめくる手を止められないように過ぎていくのを生きていくしかなかった。

ついこの前まで、毎日を共にし、一緒に集まり朝まで馬鹿騒ぎをしてすごしていた男女は受け止められない気持ちを引きづり回していたが、残りの人生を私たちが絶対幸せにしてあげよう、という、女子の考えを男子たちも大きく頷いた。

「ツーヨシ! やっほ! どう? 今日はお天気最高だよ!!!」
元気いっぱいにルカが声をかける。

「おい、それ持てっつーの! 重いんだよ俺は」
アキラが袋いっぱいにツヨシの好きな漫画やお菓子を今にも転ぶほどよろめきながら病室に入ってくる。

「あんたは本当に手の範囲を知らない男ねー。こんなおんなじお菓子ばっか持ってきてどうすんのよ! バラエティ精神がないわねっ」
サエがぶちぶち言いながらアキラの持てない袋を持ちながら入ってくる。

「喧嘩しないでよ~。ツヨシくんに怒られるよ~」
ミユが2人の言い合いをなだめる。

「本当だよ。静かにしてくれよ」
トシも愛想つかせた笑みを浮かべ発言した。

「みんなサンキューな! こんなたくさん嬉しいわ!!」
ツヨシは変わらない明るい笑顔で男女をほっとさせた。
17歳には過酷すぎる病気で辛いはずのツヨシだが、誰にもその辛さはみせなかった。

だから男女もそんなツヨシに負けないよういつも通りに振る舞った。

「ツヨシさ、お前どっか行きたいとこないの? 後悔する前に行っておこうぜー!」
アキラが笑いながらツヨシに声をかけた。
「そうだね! なんかどっかみんなで行きたいね!」
ミユもウンウンと頷くように笑った。

「行きたいとこかー。もう俺たち遊びつくしたしなあ・・・・・・。あ、」
ツヨシは瞳を窓に移し遠くを見るような顔をした。
「俺さ、ガキんとき親父と母親に連れてってもらうはずだった、幻の海があってさ。海なのに青じゃなくて透明なんだぞって親父が話してくれてさ。ま、行く前に交通事故あって両親死んじまったんだけどよっ。幻の海いつかぜってぃいこうって思ってたら、今度は俺まで行けなくなりそうだからよ、死ぬ前に一回行きたいんだよな」
ツヨシは窓から目を離さずに、話した。

男女は驚いた。
まさかこんな素直に話してくれるなんてツヨシらしくなかったのだ。
だが、同時に素直なツヨシの願いを叶えたくなりみんなはツヨシを連れて行くことに迷いはなかった。

医者に外出許可をもらい、免許取りたてのトシが運転で、福生から2時間半の場所にある幻の海へと向かった。
ツヨシは強い痛み止めを投与していないと息をすることすら困難なため、点滴を打ちながらの数時間だけ許された外出だった。

海へのドライブはツヨシにとっては2週間ぶりの外の空気だった。
入院して一週間は痛みとめまいと体調不良で起きることすらできなかったツヨシだった。

太陽が綺麗な笑顔でツヨシたちの行き先を照らした。
風は肌をすり抜けるように心地よかった。
初夏の始まりを教えたがる草花のハッキリとした色合いが空気の良さを教えてた。

ツヨシにとって残り数週間しかいれないかもしれないこの土地、景色、空気は澄み切っていて体全てで吸収できてしまいそうなくらい敏感であり、ある意味余裕がある時間だった。

あの子供の頃に両親と通った道がどんどん出てくる。
ツヨシのつらくて辛くて消そうとしていた思い出が箱をぶち破る勢いで出てくる。

男女はツヨシの気持ちに寄り添いたかったため、いつもはガチャガチャした会話だったがみんなで景色を楽しみ、思い出話しで盛り上がり、あっという間に目的地に着こうとした。

緑の木々を抜け葉っぱのトンネルを抜けるとそこには、人がひとりもいない、そして突き抜ける空の青さと広ささえも脇役になりがちな、海がドワァァァーーーーっと広がっていた。

知ってる海じゃないほど、透き通る水がツヨシと男女の前に現れた。
ツヨシは思わず車椅子から立ち上がり、自分の足で海の水を感じた。
足を少し水に入れると、爪の白い栄養部分までハッキリ見えるほどの透明加減だった。

絵:岡田千晶

「すごい」
ツヨシは自分の足元を見ながら誰かに聞こえたらラッキーなくらい小さく呟いた。

「ん? なんか言った?」
サエが聞く。
同じ感動をキャーキャーはしゃぎながらテンションをぶち上げている男女からしたら何か言ったか聞き直すくらい聞こえなかった。

ツヨシは続けて小さな声で「真下を見ると透明なのに、顔を上げると青いんだな」。
男女も確かめるように同じことをして確認した。

「俺がたってる場所は自分がこんなハッキリ見えるのに、歩いたら希望と不安が広がるかのように真っ青で自分の色がわからないんだな。歩かなきゃ、その場に行かなきゃ自分がどうなってるかなんて分からない。それは自分が一番知らない色なんだろうな。明日の自分なんて誰にもわからない。そりゃそうだ。自分が一番分からないんだから」とツヨシは海より広い目で語った。

男女も同じ方向を見ながら話を聞いていた。
「この海が広く深い以上に私たちの友情も深いよ。私は本当にツヨシに出会えてよかったよ」
ルカがハイテンションでキラキラ海の輝きに負けない笑顔でツヨシに近寄った

「本当だな。俺たちって起きたらもう外は暗くてそっからの世界でばっかり遊んでたよな。太陽なんか嫌いだなんて威張ってたよな(笑)」
トシが恥ずかしそうに笑いながら自分の恥を語った。

「太陽なんかセンコーみたいに暑苦しいからいらねぇんだって確かツヨシよく言ってたよね」
サエが記憶を戻しながら話す。

「ははははは! たしかに俺そんなガキみてぇなバカらしいこと言ってたな。太陽ってこんなに優しかったんだな。俺今気づいたわ。おせぇつーの自分」
笑いながらも目の奥はすごく悲しそうな表情だったのを男女は分かっていた。

もっと生きてたい、まだ生きてたい、ずっとこの世界にいたい。

きっとツヨシはそう思っているに違いなかったことをほかの5人は分かっていた。
どうにもならない現実が憎くて、力をこんなときに貸してあげれない自分たちが惨めで仕方ない男女だった。

助けたい、一緒にいたい、ずっと笑っていたい。
それだけだった。

6人は時間をわすれ、太陽が黄色からオレンジへ、オレンジが幕に入り夜の顔になるまで幻の海を眺めていた。
それはそれは早巻きしたように、あっという間の時間で思い出話しをするには足りなさすぎた。
だけどこの日の男女6人は言葉なんかいらなかった。全員で手を繋ぎただ海を眺め、各々が思い出を胸に刻んでいた。

「今日はまじありがとな! 最高にチルだったぜ!! お前らやっぱり最高にイカす仲間だぜ! なんかめっちゃ元気になったわ! このまま治っちまったりしてな!」
病室に戻るとツヨシが力こぶ見せながらとびきりの笑顔をみんなに見せた。

「えーまじ元気になった気がする! 幻のパワーかな? まじこのまま治っちゃうんじゃん? そしたらまじうれぴすぎ!」
ルカが本当に元気になったツヨシを目にピョンピョン跳ねながら嬉しがった。

「たしかに顔色いいぞ? 治ってたりしてな! 次行きたいとこもかんがえとけよー! たくさん行ってさ、気付いてたら病気じゃなくなってるって可能性あるからな!」
アキラも本気で元気になったツヨシを見て笑いながら話しかけた。

「今日は疲れただろうし、ゆっくり寝ろよ。また明日みんなで遊ぼーぜぇ」
「おう。そだな! 明日また遊ぼうぜ!」
ツヨシは笑いながらみんなとハイタッチして、男女5人は病室を後にした。

――

プルプルプル。
朝5時前。まだ外は夜の顔だった。
アキラの携帯電話が鳴った。

「ったく誰だよ、朝はぇーな。まだ寝とるわ」
携帯電話に目をやると、表示されていたのは、“ツヨシ 病院”。
初めての病院からの電話だった。

アキラはびくっとして、全身が熱くなるのがわかった。
勝手に震えだす手を抑え急いで電話に出た。

「もしもし?」
「あ! コンドウツヨシくんの身内のアキラさん?? 今すぐに病院きてください。ツヨシくん頑張って待ってますから」
返事の声をする前に身体が病院へと動いていた。

何を着てるんだか、どう玄関を出たか、なにをいま持ってるか、どんな顔でいまいるか、なにひとつ把握できてなんかいない。
ただ進むことだけを考えていた。
「ツヨシ、ツヨシ、ツヨシーーー!!」

だが、アキラは無意識に握りしめて出てきたものがあった。
それはツヨシが一番大切にしていたものだった。

病室についた。
先にサエがすでにいた。
あとの4人もいま向かっていた。

ツヨシは医者や看護師さんに囲まれて、呼吸が深呼吸になったり小刻みな呼吸になったりと不安定そうだった。
アキラは顔をぐちゃぐちゃにしながら、ツヨシの肩をゆさぶった。
「ツヨシ! おい! 起きろ! お前今日も俺たちと遊ぶんだろ? おい! 起きろよ! ツヨシ」

アキラはポケットに無造作にいれたくしゃくしゃになった写真を取り出し、ツヨシに見せた。
「おい、お前これ。お前のお袋さんと親父さんとツヨシの写真。お前が俺の宝物お前が持っててくれって、あの事故の後俺に渡したよな。もうつらくなるから見たくないって言ったよな。俺ずっと持ってたけど、こんな時くらいお前に返させてくれ。

お前がどれだけあの事故でたくさんの苦しみ乗り越えてきたか、俺は知ってるから。お前はまじつぇえよ。まじすげぇよ。本当に尊敬するよ....俺の一番の自慢の親友だ」
アキラは声にならない声をツヨシにぶつけた。

ツヨシはアキラの声が聞こえたかのようにうっすら目を開けて力を振り絞り、話し出した。
「お前こんなもんっ。よく持ってた、な。俺にとってお前らは自慢の仲間だよ。あ、りがと、な。あとこれで、親父と母親に会ったら言える話ができたよ。幻の海は本当に綺麗なきれ、い、な限りなく透明に近いブルーだったよってさ・・・・・・」というとゆっくり息をするのをやめた。

アキラの手をにぎっていたツヨシの手にも力がスーっと取れていく。
駆けつけた4人とサエは後ろで狂ったように涙で襲われていた。

アキラは涙を食いしばりながらだけど止めどなく、顔を濡らしていく。
ふと、ツヨシの目から流れた涙は、なんの濁りもない、限りなく透明だった。
両親との約束を果たし、それを伝えにいくようにこの世を去っていった。

(編集部より)本当はこんな物語です!

 米軍基地を抱える街、東京・福生。ロックやジャズ・・・・・・様々な音楽が流れるハウス(元・米軍住宅)では若者たちが夜な夜なドラッグとセックスに溺れていた。めまぐるしく人が入れ替わり、特別な事件が起きるわけでもなく、乱脈な日常が続いていく。そんな若者たちの退廃的な姿が、主人公リュウの、一切感情を排したカメラのような目を通して描かれます。やんちゃしながらも、どこか明るさを残したカレンさん版の6人と異なり、刹那的で空虚な若者たちの描いた作品は、半世紀近く前の芥川賞選考会でも賛否がわかれました。

 謎めいたタイトルは、ラストシーンで突然、現れます。

血を縁に残したガラスの破片は夜明けの空気に染まりながら透明に近い。 限りなく透明に近いブルーだ。僕は立ち上がり、自分のアパートに向かって歩きながら、このガラスみたいになりたいと思った。

 死に臨み不思議な色を前にしたカレンさん版のツヨシ、退廃的な生活のなかで不思議な色を見た村上版のリュウ。共通するのは「希望」でしょうか。