「あの小説をたべたい」は、好書好日編集部が小説に登場するごはんやおやつを料理し、食べることで、その物語のエッセンスを取り込み、小説の世界観を皆さんと共有する記録です。
今回は、加藤元『うなぎ女子』の世界を味わいます。
鰻屋「まつむら」を訪れる、悩みを抱えた五人の女たち。彼女たちに共通するのは、ひとりの男、権藤佑市と何かしら関わりがあるということ。権藤やうなぎにまつわる思い出を絡めながら、彼女たちの甘辛な人生模様を描いた連作短編集です。
「家庭料理なうなぎ」を食べる
生唾をゴクリと飲んでしまいそうな本の表紙だけでなく、数々のうなぎ料理が登場する物語に、“うなぎ欲”が高まること必至の一冊。
今回は、数あるうなぎ料理の中から、第二章「う巻き」に出てくる「うなぎのオムレツ」を作ってみることにしました。
四十路を迎えた加寿枝(かずえ)は、妹夫婦の仲介で大学に勤める大月先生とお見合いをすることに。「今さら……」と思いながらお見合いに臨んだものの、結婚話はいっこうに進まないまま、大月先生とは音信不通になってしまいます。
それから、2年後。大月先生からの突然の電話で、「あなたをぜひとも連れていきたいお店があるんです」と言われ、加寿枝は大月先生と一緒にうなぎ屋へ。
そこで、加寿枝はかつて妹や弟によく作っていたうなぎのオムレツのことを話し始めます。
「たれも醤油とみりんを足して増やして、たっぷりからめて」 「いけない」 大月先生は悲痛な声をあげた。 「いけませんか」「たれは神聖なものです」
大月先生の教えに従って神聖なたれを純度100%で味付けとして使い、いつものオムレツを作る要領で、うなぎの蒲焼を卵で包んでいきます。
ひとくち食べてみると、うなぎと卵のフワフワ感、みじん切りしたタマネギの歯ごたえある食感のバランスが絶妙なオムレツです。言うまでもなく、想像どおり、神聖なたれとの相性は抜群でした。
「わたしが作るのは、家庭料理ですから」 「うなぎは家庭料理じゃありません。断じて違う」 大月先生は、声を荒(あらら)げた。
大月先生はうなぎは家庭料理ではないと主張しますが、こんなに簡単で美味しいなら家でも食べたくもなるものです。
今年の土用の丑の日は7月27日。ひと手間かけて、いつもとは趣向を変えたうなぎ料理で猛暑に備えてはいかがでしょうか。