「古典百名山」で平田オリザさんが取り上げた尾崎紅葉『金色夜叉』を再読したら、記憶にあるより数倍面白かった。熱海の砂浜での悪名高き「足蹴」に至る前、うだうだ恨み言を並べる貫一と、煮え切らないお宮の会話は絶妙だ。
その怪作を橋本治さんが翻案したのが『黄金夜界』。古典の現代語訳の名手にかかると、宮は美也に、カルタ大会はIT社長のカウントダウンパーティーに……。
平成の貫一は、明治の貫一のように独りよがりで大仰な演説をぶつことはない。熱海の例の銅像前で「怒ってすむなら簡単だよな」と思い、泣く。そしてスマホを海に投げる。貫一は今も昔も「金」に縛られ翻弄(ほんろう)されるが、橋本さんはそれを現代の職探しの困難さから描いた。立ち上がろうともがく貫一は、身近に感じられた。
2作とも新聞連載。『金色夜叉』は、続・続続・新続まであり紅葉の死で未完に終わった。平成の主人公二人は鮮やかにすれ違って終わり、橋本さんは半年後の今年1月、逝去した。「新続」まで読みたかった。(滝沢文那)=朝日新聞2019年8月3日掲載
編集部一押し!
- インタビュー 奥窪優木さん「転売ヤー」インタビュー 当事者たちに密着取材、時代映すダイナミックな世界描く 吉川明子
-
- 文芸時評 記憶との再会 平行世界を生きる自分たち 古川日出男〈朝日新聞文芸時評24年11月〉 古川日出男
-
- インタビュー 児童書の名作「ワンダー」のもう一つの物語「ホワイトバード」が映画化 原作翻訳者・中井はるのさんインタビュー 加治佐志津
- 朝宮運河のホラーワールド渉猟 絡みつく恐怖に震える、怨念・祟り系ホラー長編の収穫3作 朝宮運河
- トピック 「積ん読の本」あの作家・漫画家の本棚は? 話題の読書本を5名様にプレゼント 好書好日編集部
- トピック ポッドキャスト「好書好日 本好きの昼休み」が100回を迎えました! 好書好日編集部
- イベント 「今村翔吾×山崎怜奈の言って聞かせて」公開収録に、「ツミデミック」一穂ミチさんが登場! 現代小説×歴史小説 2人の直木賞作家が見たパンデミックとは PR by 光文社
- インタビュー 寺地はるなさん「雫」インタビュー 中学の同級生4人の30年間を書いて見つけた「大人って自由」 PR by NHK出版
- トピック 【直筆サイン入り】待望のシリーズ第2巻「誰が勇者を殺したか 預言の章」好書好日メルマガ読者5名様にプレゼント PR by KADOKAWA
- 結城真一郎さん「難問の多い料理店」インタビュー ゴーストレストランで探偵業、「ひょっとしたら本当にあるかも」 PR by 集英社
- インタビュー 読みきかせで注意すべき著作権のポイントは? 絵本作家の上野与志さんインタビュー PR by 文字・活字文化推進機構
- インタビュー 崖っぷちボクサーの「狂気の挑戦」を切り取った9カ月 「一八〇秒の熱量」山本草介さん×米澤重隆さん対談 PR by 双葉社