「古典百名山」で平田オリザさんが取り上げた尾崎紅葉『金色夜叉』を再読したら、記憶にあるより数倍面白かった。熱海の砂浜での悪名高き「足蹴」に至る前、うだうだ恨み言を並べる貫一と、煮え切らないお宮の会話は絶妙だ。
その怪作を橋本治さんが翻案したのが『黄金夜界』。古典の現代語訳の名手にかかると、宮は美也に、カルタ大会はIT社長のカウントダウンパーティーに……。
平成の貫一は、明治の貫一のように独りよがりで大仰な演説をぶつことはない。熱海の例の銅像前で「怒ってすむなら簡単だよな」と思い、泣く。そしてスマホを海に投げる。貫一は今も昔も「金」に縛られ翻弄(ほんろう)されるが、橋本さんはそれを現代の職探しの困難さから描いた。立ち上がろうともがく貫一は、身近に感じられた。
2作とも新聞連載。『金色夜叉』は、続・続続・新続まであり紅葉の死で未完に終わった。平成の主人公二人は鮮やかにすれ違って終わり、橋本さんは半年後の今年1月、逝去した。「新続」まで読みたかった。(滝沢文那)=朝日新聞2019年8月3日掲載
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