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水野良「ロードス島戦記 誓約の宝冠」 100年後、新たな冒険の始まり

 「ロードスという名の島がある」という有名な書き出しで始まる水野良の『ロードス島戦記』。1988年に第1巻が刊行され、昨年30周年を迎えた本作は、前日譚(ぜんじつたん)『ロードス島伝説』、続編『新ロードス島戦記』(いずれも角川スニーカー文庫)と合わせ累計1千万部以上を売り上げた大ベストセラーであり、ライトノベルにおけるファンタジーのスタンダードとなった小説だ。
 そんな歴史的作品の12年ぶりの新作が今月、刊行された。『ロードス島戦記 誓約の宝冠1』である。長き戦乱の時代の後、ロードスにある六つの国の王は、他国への侵略を禁じる魔法の冠・誓約の宝冠をともに頂き、島には長い平和の時代が訪れた。しかし、それから100年後、ロードス最大の国家・フレイムの新たな王は宝冠の継承を拒否。ロードス統一を掲げ、他国への侵攻を開始する。再び始まった戦乱のなか、マーモ王国の第四王子ライルは、かつて幾度となくロードスの危機を救った伝説の騎士パーンの伴侶、「永遠の乙女」ディードリットと巡り合い、自身が新たな「ロードスの騎士」になることを決意する……。
 騎士に憧れる田舎の一青年だったパーンが、数々の冒険を通じ、真の英雄へと成長していったのが『ロードス島戦記』であり、彼の旅路を、パートナーとしてともにしたのが本邦におけるエルフ(妖精)の代名詞ともなったディードリットだった。その100年後を描く本作では、彼女を若き英雄候補の保護者役に迎えて、ロードスの騎士をめぐる物語の再話がなされることになりそうだ。思いもかけない形で『ロードス島戦記』を追体験することができそうで、ファンの一人として大変うれしい。
 もちろん往年のファンばかりでなく、登場人物をほぼ一新しての新作なだけにシリーズ未読の方にもおすすめしたい。ひとりの冒険者として戦うことを選んだライルと同様、彼の血縁たるマーモ王国の王子、王女たちも、それぞれの信念に従って決断を下す。ある者は王となって大国との対決を選び、ある者は国を救うためにこそ侵略者の下に亡命する。異なる道を選んだ兄弟姉妹たちの物語が、これからどのように混ざり合っていくのか。壮大な戦記ファンタジーの序章として、続きがとても楽しみである。=朝日新聞2019年8月17日掲載