アポロ11号が月面に着陸して今年で50年。改めて当時の逸話が取り上げられるなか、司令船のパイロットを務めたマイケル・コリンズがSNSで、帰路は作業に追われて窓の外の素晴らしい景色を見逃したと発言した。偉大な功績の影には縁の下の力持ちが居る。本作を読み、ふとこのエピソードを思い出した。
主人公は失業中の平仁一郎30歳。彼の元に1通の手紙が届く。その内容は、25年前より地球に襲来している謎の生命体・亞害体と戦う人型兵器のパイロット職の採用通知。新たな職場を得た仁一郎は、次々にピンチに見舞われる。
およそヒーローらしくない主人公だ。実技の成績は悪く、きちんと日報をつけ、外食の看板に足を止めるも冷凍ご飯があるからと思いなおす。ザ・庶民な仁一郎だが、ある大役をこなした帰路、充実感を抱いて月を見上げる。その表情がいい。誰も知らないが、誰に恥じることもない。こんな瞬間にこそ人生のコクが詰まっている気がする。
曲者揃(ぞろ)いの隊員と連携し、神経接続されたロボットを遠隔操作で操縦し、ひっそりと人類を守る――。ロボットものを描く上で極めて今日的な要素を盛りこみ、結実させた最適解がここにある。=朝日新聞2019年9月7日掲載