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「緋の河」書評 自分のかたちは自分で決める

評者: 斎藤美奈子 / 朝⽇新聞掲載:2019年09月14日
緋の河 著者:桜木紫乃 出版社:新潮社 ジャンル:小説

ISBN: 9784103277255
発売⽇: 2019/06/27
サイズ: 20cm/534p

男として生まれた。でも、きれいな女の人になりたいな−。己の信じる道を進んだカルーセル麻紀の波瀾万丈の人生を、事実を元に、想像力を最大限に加えて描く。『北海道新聞』『中日新…

緋の河 [著]桜木紫乃

 彼の名前は平川秀男。愛称はヒデ坊。戦時中に生まれた彼は身体が小さく、物心つく頃から「こんまい子だ」「めんこい顔だ」といわれて育ち、同年代の子には〈なりかけ、なりかけ、女になりかけ〉と囃された。戦後復興期の北海道釧路。『緋の河』はここで生まれた少年の少しばかり数奇な成長の物語である。
 「少しばかり数奇」なのは秀男のジェンダーアイデンティティが関係しているのだけれど、どこまでも自分を肯定する秀男の際立った個性は、そんな総論をあざやかに弾き飛ばす。
 はじめて好きになったのは小学校で同級になった文次。身体の大きい無口な少年だった。〈ヒデ、お前は『なりかけ』かもしれんけど、俺は『あいのこ』だ〉と文次はいった。秀男は返す。〈いいじゃないの。それできれいに生まれたんなら〉。文次はしかし、小学校を出ると同時に東京に行ってしまった。相撲部屋に入るのだといって。
 文次のいる東京に行く!
秘めた思いを胸に秀男は成長し、15歳で家出。札幌すすきののゲイバーで念願のゲイボーイになった。〈ねえさん、あたしここに来てから、朝から晩までやることいっぱいあるけど、ものすごく楽なの。酸素が濃いみたいに呼吸が楽なの〉
 しかしこの後、捜索願が出ていた秀男は釧路に連れ戻されてしまう。
 主人公のモデルはカルーセル麻紀さん。登場人物やできごとの多くは虚構だと作者は断っているものの、文化祭の「爆笑白雪姫」で主役を張った高校時代から「女より美しい男」のストリップショーが評判になった大阪時代まで、秀男に一貫しているのはショーマンシップの精神だ。
 〈お前が過ごした中学校三年間は戦後民主主義の輪郭だと思ってる。自分のかたちは自分で決めるという主体性の切っ先に、お前がいるんじゃないかと思う〉
 中学の担任教師の言葉である。時代の先端を行くってこういうことなのよね。
    ◇
さくらぎ・しの 1965年生まれ。作家。『ホテルローヤル』で直木賞。『起終点駅(ターミナル)』など。