「父さんはどうしてヒトラーに投票したの?」書評 我々の社会に重なり合う絵本
評者: いとうせいこう
/ 朝⽇新聞掲載:2019年09月28日
父さんはどうしてヒトラーに投票したの? (エルくらぶ)
著者:ディディエ・デニンクス
出版社:解放出版社
ジャンル:知る・学ぶ
ISBN: 9784759222760
発売⽇: 2019/07/23
サイズ: 27cm/39p
父さんはどうしてヒトラーに投票したの? [文]ディディエ・デニンクス[絵]PEF
その題名の通り、第2次大戦前のドイツの総選挙で主人公の父がナチ党に一票を入れるところから、この絵本は始まる。
ナチ党は過半数を取らなかったが、第一党となった彼らは数週間のうちに全権を握る。それをドイツ国民は熱狂をもって迎えた。
すべて教科書に載っていることである。
ヒトラーは「わが国民が苦難におちいっているのはユダヤ人のせいだ」と言い、ナチは露骨にユダヤ人を差別し始め、それどころか障がいを持つ者さえ滅ぼそうとする。
主人公の少年が語る言葉は絵本らしく大きく、また逐一入る細かい解説も最小限の字数で平易だ。
そして何よりも、このドイツの過去の歩みが今、なんと鮮明に我々の社会と重ね合わされることだろう。
敗戦後の壊滅したミュンヘンへ移動した少年は、最後にこう言う。「ねえ、父さん、父さんはどうしてヒトラーに投票したの?」
同じ問いがここにある。