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ポーランド発の大判絵本「マップス 新・世界図絵」 興味と好奇心の引かれるままに、旅をさせてくれる

文:五月女菜穗、写真:北原千恵美

――最初に『マップス』を描こうと思ったきっかけを教えてください。

アレクサンドラ:最初のきっかけは、10年ほど前に旅行していた時のことです。私たちはアメリカのニューヨークを旅していました。旅先で新しい場所に行くと、インスピレーションがわいたり、新しいものに出会って刺激を受けたりします。そういった経験の中で、新しい国に行き、見たことのないものを見て、面白いなと思う経験を本にまとめたらどうかということを2人で話し合っていました。

ダニエル:子どものころの記憶も、きっかけになっています。ふたつあって、1つ目は、子どものころ、月刊の百科事典の分冊のようなものを取っていました。毎月いろいろなテーマにそった本が家に届くのですが、それを見るのが好きだったんです。大抵は黒いインクで印刷されていますが、ところどころにカラーの口絵があって、1ページに余白がないほどたくさんのイラストが描かれていました。

『マップス 新・世界図絵 愛蔵版』(徳間書店)より

アレクサンドラ:もう1つは、私の母が地図製作を仕事にしていたことです。コンピューターが普及する前だったので、トレーシングペーパーを使って、手で精巧な地図を描いていました。家にはいろいろなタイプの地図がいつも溢れていて、それを眺めるのが好きでした。今でも例えばメトロの路線図など、いろいろな地図を見るのが好きですね。

ダニエル:そういった子供の時から持っていた感覚、本を開くといろいろなことが描かれていてワクワクするような感覚を、自分たちの作品でも伝えたいと思ったのです。

――『マップス』を制作するにあたり、どのような手順を踏み、どのようなこだわりを持って地図を描かれているのですか?

アレクサンドラ:描く国の地図の国境と川や湖を描くことから始めます。そこから、大きなビルや有名な建物など、ランドマークのようなものを描いていきます。その後、その国で有名な動物、植物、食べ物、著名人、農産物などに関する情報や、その国に伝わる有名な神話や伝説といったものを細かくリサーチして、その中から選び、イラストを描き、地図の上に配置していきます。1カ国を描きあげるのに、1カ月から1カ月半ほどかかりますね。

アレクサンドラ・ミジェリンスカさん

ダニエル:最初の『マップス』ができあがるまで3年かかっています。描きはじめたころは私たちも試行錯誤していましたので、好きなものや描きたいもののリストを作っていましたが、今はリサーチする項目を決め、1カ国あたり300ほどの候補から100ほどに絞っています。

――見出しの国名は、各国語版すべてご自分でレタリングをされたそうですね。

ダニエル:最初に地図を描き始めた頃は、解説の部分の文字もすべて手書きにしていたのですが、すごく時間がかかってしまい、非効率だったので、自分たちでフォントを作ることにしました。ラテン文字とキリル文字を作りました。

なるべく毎回手書きで書いた感じを出したくて、ひとつの文字を3~4種類作っていて、文字をタイピングするたびにランダムにどれか1種類が表示されるように工夫をしています。例えば「a」という文字も何種類も用意していて、同じ単語でもそっくりには見えない、まさに手書きをしたみたいに見えるように工夫をしています。機械的なものではないように受け取ってもらえればいいなと思います。

日本語版のフォントに関しては、日本の編集者と相談して、既存のフォントの中で私たちのイメージに近いものを選んでいます。というのも、私たちは、文字から受ける印象をすごく大切にしていて、文字を見たときにどんな気持ちが湧き上がって欲しいかというイメージがあるので、それにいちばん近いフォントを選んだんです。

アレクサンドラ:ただ、日本語版でもどの言語の版でも、見出しの国名は必ず手で書いています。

『マップス 新・世界図絵 愛蔵版』(徳間書店)より

――日本のページについてお尋ねします。日本については、もともとどういうイメージをお持ちだったのでしょうか?

ダニエル:私たちだけではなく、多くのポーランド人にとってそうだと思いますが、日本とアメリカというのは、憧れの国なんです。いろいろな「いいもの」がこの2つの遠い国からやってきたというイメージがあります。必ずしもそうではないということも分かっていますが、憧れの、不思議な国でした。

小さい頃から、日本のアニメ、漫画、そして黒澤明の映画、ビデオゲームに夢中でした。「ドラゴンボール」や「セーラームーン」がヒットしていましたし、私自身は「攻殻機動隊」、「AKIRA」などが好きでした。それからジブリ作品が大好きになって……というように、日本のポップカルチャーに囲まれた少年時代でした。

アニメや漫画以外でも、剣道を数年習っていましたし、私の友人も合気道をずっとやっています。また、子どもたちには空手が人気です。「日本的なもの」は、ポーランドのいたるところにあって、知らず知らずに経験していることが多いと思います。

ダニエル・ミジェリンスキさん

――現在、『マップス』は33言語以上に翻訳されて、世界で300万部を売り上げています。この本がなぜこんなに世界中の人から愛されていると思いますか?

ダニエル:正直なところ、自分では理由はよく分かりません。私たちにとって、この『マップス』は2冊目の本で、キャリアも経験も全然ないところで作り始めました。ですから、この本に対してどんな反響があるか、どれぐらいの人に受け入れてもらえるか、全く想像できませんでした。『マップス』の刊行から15年が経ち、今では25冊ほど本を出版していますが、新しい本が出る度に、読者に受け入れてもらえるのか、不安に思います。

というのも、私たちが「これは売れるだろう」と思って作った本が、私たちの本の中で一番売れていないんですよ。ポーランドでは、発売時にプロモーションに力を入れて、グッズまで作ったのに、最初の2週間で160冊ほどしか売れず、1年でやっと5000冊売れました。なかなか想像通りにはいきませんね。

――これからも『マップス』に新しい国をふやしていくご予定ですか? また、どんな読者に読んでほしいとお考えですか?

アレクサンドラ:はい、これからも新しい国をふやしていくと思います。これまでページが増えてきた背景には、最初のバージョンに自分の国が載っていなかった出版社の方々から「ぜひ自分の国も描いてほしい」というリクエストをいただいたことがあります。

ヨーロッパの国々の方が多かったのですが、インドネシア、台湾、イランなどからもお話をいただき、まず16の国と地域を追加しました。新しく描いていく中で、世界中の全ての大陸に目を配って、満遍なく描いた方がいいなと思うようになり、さらにそこからアフリカの国々と南米の国々を少し足していきました。これからも描き続けられるといいなと思っています。

ダニエル:もちろん、日本中の全ての子どもたちに読んでもらえたら一番嬉しいです。子どもたちが世界のことを知りたいなと思った時に、『マップス』を開いて、どんな世界が広がっているのかを学ぶきっかけにしてくれたらいいなと思います。

今はインターネットも、YoutubeもGoogleも何でもありますから、子どもたち自身にもいろいろと調べてみてほしいですね。『マップス』で興味を持ったイラストをきっかけに、それはどんなものなのか、どうしてその国にあるのか、といったストーリーを深く探ってみると面白いと思います。興味と好奇心の向くままに、旅ができる本になっていると思うので、ぜひそういう風に『マップス』のページをめくってみてください。