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ナイツ・塙宣之「言い訳 関東芸人はなぜM―1で勝てないのか」 手の内を明かして、さらに高次元へ漫才を導く

 若手ナンバー1の漫才師を決めようというコンテスト、M―1グランプリ。著者は参加資格が結成10年以内に限定されていた2001年から2010年に開催されたものを第一期、結成15年以内にまで引き伸ばされた2015年から現在までを第二期と区分けし、競争の当事者から、審査員の立場で参加することになった大会を振り返る。

 第一期のM―1は、技術面のみならず、決勝なら4分という限られた時間のなかでいかに数多く、効果的に笑わせるかという「システム」面での競争であった。漫才師はシステムを開発するプログラマーでもあり、それを身体で表現するアスリートでもある。

 この大会を、「関東芸人はなぜM―1で勝てないのか」という切り口を用意して整理してみせたことが本書の画期的な点だ。ナイツが優勝に手をかけた08年決勝。私は、持ち時間の長い寄席から短いテレビまで場所によってネタの尺とスピードを伸縮自在に操り、子どもから大人まで楽しめるナイツの漫才は、それでも最強だと思っている。しかし、意外なことに当の本人は「勝てなかった」という想(おも)いを持っていたようだ。

 「漫才とは、上方漫才のことであり、上方漫才とはしゃべくり漫才のことなのだ」と断言する著者。日常会話から漫才的である大阪は、サッカーでいえばブラジルだと見立てる。そのブラジルに、アウェーで異国の地の言語(標準語)やスタイル(コントを取り込んだ漫才)などを駆使して挑むというのだから関東芸人にはハンディもある。過去、そのブラジルで勝った芸人たちは、なにを考え、どうアプローチしたのか。そしてナイツの取った戦略は……?

 一問一答形式で全90問。プロによる漫才観にもヒリヒリする読後感。現役の芸人がこうした本を著すのは、手の内を明かすようで「若手引退宣言」に等しい覚悟がいる。しかしその代償として、漫才はさらに高次元での競争へと導かれる。

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 集英社新書・902円=6刷7万部。8月刊。著者は漫才コンビのボケ担当。「立川談志『現代落語論』の漫才版を目指した」と編集者。
=朝日新聞2019年10月26日掲載