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#37 151のバスとカプレーゼと イタリア・ナポリ

ナポリの街で撮影した1枚。すごく大きな声で男性が電話していた

 旅の記憶をどう記録に残すか。これは結構深くて、旅人同士で語ると面白いテーマだと思う。

 人間は忘れてゆく生き物なので、あんなに楽しかったはずの(もしくは大変な目に遭ったはずの)旅の記憶は、残念ながら時とともに薄れていく。だからこそ、旅の思い出を少しでも残そうと、とにかくシャッターを押しまくる人もいれば、1日の終わりに日記や手紙を綴る人もいるし、最近だと旅の最中にブログを随時更新したり、SNSに旅の様子をアップしたりする人もいる。今まで出会った旅人の中には、その街の絵葉書を1枚だけ買う、なんていうおしゃれな人もいた。

 で、私はというと、シンプルに、日記をノートに書く派である。友達と弾丸で旅行するときなどには書かないのだが1週間以上海外に出るときは大抵書いている。大学生の頃から何となく始めた習慣。時々パラパラと見返すと、旅の情景が思い出されて、それがどんなに些細なことであっても、愛おしく感じてしまう。

 例えば、世界一周中に訪れたイタリア・ナポリでの一節。

 「1時間ほどしてナポリに到着。しかし問題はここからでバスが見つからない。“151”というキーワードはとれても、それがどこかみんなアバウト。しかもイタリア語。1時間ほどしてようやくそれらしきバス(港に行く?と聞いたら、うんと頷く)に乗るも、街中をUターンするだけで結局振り出しに戻る。そうして、戻ってきたら隣のバスが“151”。おじいちゃんが合図してくれて、すぐに港に着いた。案の定13:30の船には、間に合わず(あと10分!)。港の近くのRISTORANTE CASETTA ROSSAでゆったり食事。カプレーゼとボンゴレで癒される」

 こんなことがずっと書いてある。どうでもいい。どうでもいいことなのだけれど、あの日の私にとっては一大イベントで、どうしても残しておきたいことだったのだと思う。忘れてしまいそうな旅のカケラとして。

ナポリ港の近くのレストランで食べたカプレーゼ

 『情報は1冊のノートにまとめなさい』で知られる奥野宣之さんが『歩くのがもっと楽しくなる 旅ノート・散歩ノートのつくりかた』(ダイヤモンド社)という本を書いている。これが、すごい。奥野さんの旅のノートは、雑誌や新聞などの切り抜き、旅の途中でもらった半券やショップカード、自分の行動、その時に思ったことなどがビジュアルとして記録されているのだ。なんでも制作にあたっては、旅の前(憧れを集める)、旅の途中(素材を集める、道中メモを工夫する)、旅の後(1冊に集約、後で書き込む)という工程があるそうで、気合いが違う。

大切な体験を、記憶に任せておけない。だから「記録」するわけです。(20ページ)
僕がずっと印象に残り続けるような本物の喜びを味わったのは、自分の力で計画した旅や、自分の感性で見つけ出した風景でした。そうやって自分の力で見出した楽しみというのは、強い。損得も費用対効果も、世間の価値観すら超えたところにあります。ほかの人が見向きもしないものが、宝になるし、そこから得られる喜びは、誰にも奪えません。旅ノートや散歩ノートとは、人生の体験の中にそんな「自分だけの聖域」を打ち立てることではないでしょうか。(163ページ)

 奥野さんの旅ノートを見ていると、自分の記録力の乏しさに少し泣きたくなるのだが、とはいえ、コツコツと書きためてきた私の旅の記録も、30歳になる今、なかなかの量になっている。これが500年後ぐらいに発見されたら、「古典旅文学」になると信じて、これからも旅の記録を続けたい。