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「龍彦親王航海記」書評 澁澤の偏愛者も満足の評伝

評者: 出口治明 / 朝⽇新聞掲載:2020年01月18日
龍彦親王航海記 澁澤龍彦伝 著者:礒崎 純一 出版社:白水社 ジャンル:伝記

ISBN: 9784560097267
発売⽇: 2019/10/31
サイズ: 20cm/506,14p

龍彦親王航海記 澁澤龍彦伝 [著]磯崎純一

 澁澤龍彦との出会いは、大学の憲法ゼミで表現の自由について発表した時、サド裁判を調べたことがきっかけだ。『悪徳の栄え』を読んだ時の衝撃は今でも忘れられない。そして、澁澤の作品や現代思潮社の本に親しむようになったのだ。
 澁澤一族の本家筋に生まれた澁澤は二浪して東大仏文に入学、ペン一本で一生を終えた。写真を見て生活臭のまるでない人だと思っていたが、外出すら一人では出来ず母や妹、妻たちが黙々と昼夜逆転の少年のような実生活を支えた。
 「生々しい情感のふれ合いを避け」「知的観念的な世界を愛し」た澁澤は、ドンチャン騒ぎが好きで、食べることや色気より「見栄」が重要だと即答する人だった。周りには三島由紀夫ら強烈な個性が集まった。センチメンタルを嫌った澁澤は読書中に頸動脈瘤が破裂し59歳で死を迎えた。本書は克明に澁澤の生涯に迫り、僕のような澁澤の偏愛者を満足させるだろう。