外回りの営業中に定食屋に入ったシイノは、テレビから流れてきたニュースで親友のマリコの死を知る。先週会ったばかりなのに、なぜ? 後日、シイノはマリコの遺骨を携え、彼女が見たがっていた海を目指す。
シイノのふるまいは一見、粗野にみえる。しかし、彼女が抱える喪失感の奥底には、複雑な思いと不可分のピュアな輝きがある。その満ち欠けが紙面に生身の人間が呼吸しているようなリズムを作りだしており、引き込まれる。ふと頭をよぎるベタなダジャレもいい。シリアスなシーンでも100%神妙になりきれないヒトの性が愛(いと)しくさえ感じられる。さらにシイノは、直情的な行動でもって紙面に小気味いい疾走感をも生みだす。ゆえにページをめくる手が止まらない。
本作は女性同士の深い魂の結びつきを描いた作品だ。と同時に、個人的な記憶に立ち現われる虐待やDVを通し、ギリギリを生きている人が立つ社会的地点も描きだされている。絶望の果てに「そーだよ わたしぶっ壊れてるの」と語ったマリコ。とはいえ、彼女が居た場所が何もない荒野だとは思えない。熱いものが漲(みなぎ)るラストシーンから、そう思った。=朝日新聞2020年1月18日掲載