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辛島デイヴィッドさんが薦める新刊文庫3冊 家族にまつわる記憶のズレ

辛島デイヴィッドが薦める文庫この新刊!

  1. 『クラウドガール』 金原ひとみ著 朝日文庫 704円
  2. 『デトロイト美術館の奇跡』 原田マハ著 新潮文庫 506円
  3. 『かわいい夫』 山崎ナオコーラ著 河出文庫 902円

 (1)自由奔放な高校生の妹としっかり者の大学生の姉。一見正反対に見える姉妹の視点が交差しながら小説は進む。視点が変われば、見えてくる風景もおのずと変わる。特に2人が幼少期から共有してきた家族にまつわる記憶のズレが徐々に浮き彫りになる。姉妹はそれぞれの物語を語ることにより、亡き母の呪縛からの解放を目指す。現代の若者の生を鋭く描いてきた著者による意欲作。

 (2)週末の「行き場」だけでなく、多くの人にとって大切な「生き場」ともなっている美術館が、市の財政破綻(はたん)を受け、コレクション売却の危機に直面する。最愛の妻を亡くしたデトロイト生まれの年金生活者から仕事のために同じ街に移り住んだキュレーターまで、一枚の油彩画―セザンヌによる妻の肖像画―に、心を奪われた人物たちの人生が交差し、奇跡を起こす。実在する美術館を舞台とした本作は、良質なフィクションであると同時に、やさしい美術案内でもある。

 (3)何げない日常の一場面を描くものから、流産や父の闘病と死を直視するものまで、エッセイのテーマは多岐にわたる。新聞連載としてスタートし、文字数が限られたなかで定期的に書かれたことも関係しているのか、その文体は直球型。日記に近いところもあり、ゆるやかな書簡体ファミリー・サーガとしても読める。テレビや映画でドラマチックに描かれる夫婦関係やSNS上で完璧にキュレーションされた家族像を見るのはいささか疲れたという方はぜひ。=朝日新聞2020年2月22日掲載