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藤巻亮太の旅是好日 自宅でこのコラムを読んでる人へ今、贈りたい詩

文・写真:藤巻亮太

 数カ月前のことだった。古くからの友人が僕に、とてもよいからと「相田みつを美術館」のチケットをくれた。「にんげんだもの」の一節はあまりにも有名だし、詩人・書家として、もちろん知ってはいたが、僕はその美術館ではじめてに近い感覚で詩と書にむきあわせてもらった。とてもシンプルで分かりやすい言葉でどこか当たり前に聞こえることが、これほど心に深く突き刺さってくるとは正直、思っていなかった。一通り見終えたあとで、じわっと、心の奥から静かに沸き起こる感動にまかせて、僕はそこで販売していた詩集を買った。

 数日後、チケットをくれた友人に再会したとき、素敵な機会をくれたことに感謝を伝えた。このとき世間では「新型コロナ」の存在などは極めてマイナーな存在に過ぎなかった。なお、僕が展示フロアーでみたなかで心に残った作品の一つにこんな詩があった。

「馴れ」

馴れるな
馴れるな
一生馴れるな
馴れると
感動がなくなってしまう
感動がなくなったら
人生はおしまいだ
※一部抜粋

 この詩を読んだとき僕ははっとした。実際いろんなことになれてきているのは事実だ。アマチュアからプロになり、いつの間にか相当の年月が過ぎており、音楽の世界でキャリアを積むなかで、必然的にこの業界のことについてはなれてくる。

 一方で、常に一定のプレッシャーはある。特に2年前にデビュー以来長年所属していた事務所を離れてからは、それまでは挑まなかった新しいことに向き合い取り組んできている。それは当然ながら責任をともなうが、それでも自由にできることが増えたのは事実だ。僕はこの詩に自分の心を点検しつつもシンパシーを覚え、そして改めて背筋がピンと伸びるような感じがした。それから数カ月が経った。日本だけでなく世界全体が一変してしまった。

 いままでだったら、僕が書いているこのコラムなども読者は好きな時に好きな場所で読むことができたことだろう。移動中の満員電車、勤務先での休憩中、友人や知人たちとワイワイガヤガヤとやっている楽しい集まりの合間、あるいは、仕事や取引先などとの付き合いで仕方なく出席している宴会の最中に小用で席を外した時・・・・・・それぞれ自由だった。だが、いまとなってはそうした選択も狭められている。この文章を読んでくれる人たちの多くは自宅で読まれているのだろうか。もういまさらいうまでもないが、新型コロナが世界を変えてしまったのだ。

 緊急事態宣言を受けての外出自粛期間は、不要不急以外では自宅は出ないように僕も努力している。そして自粛要請ではあるけれども、多くの人が義務感をもってこれに臨んでベストをつくしているように僕は思う。一大事だから、今年は皆が自由に謳歌できるゴールデンウイークもないだろう。自宅にいることが多くなり、外の世界と接触が少なくなるのも仕方がない。だが、人間は社会的な生き物だから外の世界が気になるし、この状況ではネットやニュースなどのメディアを通じてしか社会のことを知ることはできない。しかし世界が経験したことのない未知のウィルスを前に誰も確実なことはいえない。

 報道する側も、それぞれ制限もあるだろうし、いままでのやり方とは勝手が違い必ずしも適切な情報ばかりを提供できるわけではないかもしれない。受け取る側も同様に、ストレスやプレッシャーを感じ冷静に聞いて考えることができなくもなる。そんな隙をついていろいろなデマや誤情報が飛び交い、不安に駆られて衝動的な行動へとつながっていく。トイレットペーパーの買いだめ、食料品の買い占めなどがその典型なのだろう。

 もちろん、大切な人や家族がつつがなく暮らしていくための最低限の備えをすることは、冷静な頭で行われるという条件のもとで必要なことだろう。ただ、それもまた行き過ぎればおかしくなるのだ。こんなときすぐ近くの愛する人や家族のこと、そしてもう少しその輪を広げた地域社会、コミュニティ、国とを天秤にかけたバランスがとても大切になってくる。

 僕はそんなことを思いながら、数カ月前にみた「相田みつを美術館」で同じく展示されていた作品の一つをふと思い出したのだ。

「うばい合えば」

うばい合えば足らぬ
わけ合えばあまる
うばい合えば憎しみ
わけ合えば安らぎ

うばい合えばにくしみ
わけ合えばよろこび
うばい合えば不満
わけ合えば感謝
※一部抜粋

 僕はこの詩を心の深いところに留めておくべく努めたい。日本と世界のコロナ騒ぎが終息することを深く深く願いながら。